原文・訓読・口語訳は、前川幸雄氏による『橋本左内の漢詩』の第1冊目サブタイトル『見果てぬ夢の世界』に従いました。
 口語訳
 電話が伝わって来て、口頭で話すのが快い。
 役立つ器械で全く頼りになる。二本の糸で遠方と結ばれるだけだが。
 今から後は、もはや旅人も故郷のことを思って、夢を見るということもないであろう。

 万里も遠くの雲のように見える山々が隔てる故郷の人とも、となりの人のように話し合うことができるのだから。

 

 この一首は『西洋雑詠』185番から191番7首中の5首目です。
 185番 攘夷論者に対して西洋にも学ぶ必要ありと説く
 186番 西洋人と中国人の比較について
 187番 西洋の航海術
 188番 西洋人の海外への進出意欲と勇気について
 189番 この詩
 190番 蒸気機関車について
 191番 西洋の風景について

 

 この詩の電話機については、安政2年(左内22歳)江戸遊学時代の旅日記に「伝言器拝見」とあります。また、152番に25歳作の長編の古詩『英吉利船行』があり、イギリスが通商を求めて来ていることをとりあげ、中国でのアロー号事件やインドでのセポイの反乱でのイギリスの圧倒的な軍事力について触れており、左内が西洋事情を詳細に把握していたことがわかります。
 動画中の、蒸気機関車と電信機の画像は、ペリーが来航した際のアメリカ大統領から将軍に贈られた電信機と模型蒸気機関車です。模型蒸気機関車は、レールを敷設して、多くの日本人の前で運転が披露されたとのことです。その他に、時計、望遠鏡、小銃、サーベル、ラシャ、農具なども贈られたとのことです。

 

 吟誦は、Vocaloidの初音ミク(日本語)と洛天依(中国語)に歌ってもらいました。