昨年2004年にリリースされたブラジル音楽界の大御所カエターノヴェローソのアルバム。少し遅れて発売された日本盤には“異国の香り~アメリカン・ソングス~”という邦題がついた。歌手だけでなく、作曲家や作家としての顔も持つ彼が最新アルバムで聴かせてくれたのは、邦題にもあるとおりアメリカンポップスの名曲カバー。
硬派なミュージシャンのイメージが強かったカエターノ初のフルカバーアルバム。歌詞はすべてオリジナル通り英語詞で歌われており、やや鼻にかかったポルトガル訛の発音がいつも通りの彼の音楽世界をつくっている。
彼のバックを支えているのは、長年ヴェローゾと組んでいるアレンジャー兼チェロ奏者のジャック・モレレンバウム率いる28人編成のオーケストラ。ギターにカエターノの息子であるモレーノとを加え、オーケストラの上にアフロキューバン、ボサノヴァのリズムと、エコーのかかったスペーシーなシンセギターの響きが浮遊していて、カバーとはいえいつも通りの独特なサウンドを聴かせている。
カバーした曲はコール・ポーターの“Love For Sale”やポールアンカの“Diana”エルビスの“Love Me Tender”といった王道アメリカンポップスから、ニルヴァーナまで一口にアメリカンポップといってもかなり幅が広い。
その中でもニルヴァーナの“Come as You Are”、Arto Lindsayの“Detached”の斬新な解釈は特筆に価する名演で、彼の音楽観の懐の深さを感じさせてくれる。
その他、ディランの“It's Alright, Ma” のレゲエ風アレンジ、Stevie Wonderの“If It's Magic”“Smoke Gets in Your Eyes”のジャジーなアレンジ等全23曲まったく手抜きのない内容である。
全体的に無駄を取り除いたワビサビの世界にも通じる潔くシンプルなアレンジで、原曲の持つ美しさを表現している。このカバーアルバムは伝統に根ざしたブラジルの音楽を続けている彼の音楽が現代的な要素も吸収していることを見事に証明してみせた名盤といえる。精力的にコンスタントにアルバムを発表しており、次のオリジナルアルバムも楽しみなところではあるが、今後も少しづつこういったカバーにも挑戦して欲しいと思う。