○業績悪化は人事に現れる
会社の業績悪化が止まらない。このままでは事業の存続すら危うくなる。そこまで追い込まれた会社は、固定費の大部分を占める人件費に手をつけます。 人件費に手をつけるといっても、すぐに従業員をやめさせたりはしません。派遣・パートなどの非正規社員の雇い止め、正社員の配置転換を行って、できるだけ正社員の雇用を守ろうとします。 同僚が突然異動になった場合、誰がどこに異動になったかに着眼すると業績悪化の深刻度が分かります。 ある事業部の業績が悪化すると、まず間接部門の人員削減が行われます。異動先が事業部内であれば、深刻度は大きくありません。事業部内で調整できる余力がまだあるということだからです。 配置転換が事業部を越えて全く関係の無い他部門や子会社になってくると、事業部内人事だけでなく本社人事部がからんでいることになります。本社人事部が動いているということは、今後、その事業部のリストラが計画されているということです。

○異動させやすい人材から異動させる
通常、本格的にリストラを実施する前に、異動させやすい若手を他部門や子会社などに緊急避難的に異動させます。中高年は新しい部署での適応が難しく、また異動先でのポスト確保も困難なので、後回しにされることが多いです。引き取り手のある若手や中堅社員が異動になり、職場は中高年が中心になります。中堅社員であってもエース級の人材は残ります。エースが異動すると事業部の再建が困難になるからです。 異動が困難な中高年が異動になる頃には、事業部の業績は急降下しています。異動先も今までのキャリアとは無縁な職場で、仕事内容も単調な仕事になります。それと同時に希望退職の募集が始まります。 希望退職に応じないベテラン社員は、不慣れな職場に追いやられ、自主的に退職するように仕向けられます。

○経営幹部の転職など人材の流出にも注意しよう
リストラに先立ち若手社員の配置転換が始まると、臭覚の鋭い優秀な人材は、他社への転職を検討しはじめます。 リストラ(希望退職の募集)を始めると優秀な人材が真っ先に応募すると言われていますが、優秀な人材は、先々を見据えて準備をしているからです。逆に優秀でない人材は、普段から自分の仕事ぶりを振り返ることもなく、また目先しか見ていないので、自分がリストラの対象になると驚きます。そして会社にしがみつこうとします。大企業であれば希望退職に応じた人材に割増退職金が支給されます。50代以上のベテラン社員であれば住宅ローンを完済でき、転職先で給料が多少下がることがあっても悠々自適の生活を送れる可能性があります。優秀な人材の中には、会社の業績が悪化していてもいきなりは転職せず、希望退職の募集が始まるのを待つ人もいるでしょう。一方で、好条件で再就職できる先を見つけて、早々と転職する人も出ます。優秀な社員の行動を、業績悪化のシグナルとして注視するとよいでしょう。経営幹部が希望退職の募集を待たず転職する場合もあります。経営幹部は誰よりも会社の実態を知っているので、幹部の転職は非常に危険なシグナルとなります。 誰しも自分が一番かわいいので、沈む船からは、さっさと逃げ出すのです。割増退職金も出ないほど、業績が悪化している懸念があります。
(文:本田 和盛(企業の人材採用ガイド))