「ここ5~6年、裏社会の現場で大学生の姿を見る機会が増えてきている」
ノンフィクション作家の草下シンヤ氏がそう話す。『裏のハローワーク』など、裏社会に関する書籍を多く発表している草下氏は現在、「週刊ビックコミックスピリッツ」で連載中の漫画『ハスリンボーイ』(小学館)の原作を担当。 “ハスリン”とは非合法な商売で稼ぐことを意味する。作中では主人公である大学生のタモツが、奨学金返済のため違法な道具屋として池袋の裏社会で働く様子が描かれているが、フィクションとはいえ、実際に多くの取材に基づいているそうだ。いま大学生(若者)の間で裏稼業が流行しているとはどういうことなのか。草下氏に話を伺った。

◆Fラン大学生が将来を不安視、裏社会に希望を見出す
「大学生は裏稼業においてバレにくい(職質されにくい)という特権があり、裏社会の人間が利用しようとするんです」
一般的に大学生といえば、一人暮らしを始めたり、サークルや飲み会、旅行など遊びの機会が増えたりする。当然、お金が必要となってくる。そんなときに近寄ってくるのが裏社会の人間たちだ。とはいえ、大学生が普通のアルバイトではなく、裏稼業にまで手を出してしまう背景にはなにがあるのだろうか。
「裏社会にいる大学生はいわゆるFラン大学の人間が多い。真面目に就職したとしても年収300万、日本経済は縮小していくばかりで先が見えない。表の世界でやっていくことがバカバカしく思えてきてしまうようです。そのなかで一見派手に見える裏社会に魅せられ、道を外してしまうことが多いですね」
現在は大卒だからといって安定した未来は約束されていない。それならば一攫千金を狙って……ということらしい。一方で、大学生にとっては大金でも、裏社会にとっては端金。彼らにとっては使い勝手のいい労働力を安く購入している構図なのである。

◆入り口は繁華街のキャッチから…
では、実際に普通の大学生がどのようにして裏社会に流れていくのか。「数年前の一斉摘発で捕まったキャッチの半数が大学生だった」と草下氏。現在、都内をはじめ多くの?華街では路上での客引き行為が条例で禁止されている。上野の仲見世通りなど浄化された地域もあるが、迷惑な客引き行為が絶えない地域もいまだに見られる。そんなキャッチの仕事が大学生に人気のアルバイトとなっているらしい。とはいえ、それが裏社会への入り口となってしまうこともある。

「通りによって仕切っている組織が異なり、最終的にはケツモチである組織に金銭が流れることになる。路上に立つにも場所代を組織に2~3万円程度収める必要があり、やはり一般的なバイトと比べると、裏の人間と接する機会が多いです。またキャッチの間には “やっつけ”っていう言葉がある。ムカついた客がいれば、ぼったくりの店に連れて行っちゃう。そういう店との繋がりから、裏社会に足を踏み入れてしまう大学生が多いですね」
ほかの裏稼業と比べて、路上のキャッチは大学生にとってハードルが低い。なろうと思えば誰でもなれる。しかし、そこは繁華街。裏社会の人間も少なくないのだ。

◆クスリの売人やオレオレ詐欺に加担することも…
大学生はもちろん、若者たちが道を踏み外すパターンはそれだけではない。クスリの売人、オレオレ詐欺のグループなどに転身するケースまであるという。
「クスリ系の犯罪は、やはりクラブが入り口になることが多いです。マリファナの売人をやっている大学生もいる。そいつ自身がネタ好きで買うためにクラブに出入りしているうちに売人に目を付けられてしまうんです。『ネタが好きならお前も売ってみるか?』という感じでスカウトされる。あるいは、自分で吸うぶんだけマリファナの栽培をしていた大学生が、クラブで売人に尾行されて家を突きとめられ、脅しをかけられてそのまま手下にされてしまった例もありますね」
また、地元の悪い“先輩”から誘われてしまうこともある。たとえば、ハスリンボーイの舞台となっている池袋をはじめ、半グレ集団によるオレオレ詐欺事件の被害も深刻だ。今年1月~6月における「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の被害額は174億9000万円にのぼる。草下氏は、これらの詐欺に加担していた若者のひとりをこう振り返る。
「建築現場の仕事で地方から東京に出てきた18歳の青年が、オレオレ詐欺の受け子(金を受け取る役目)で捕まってしまった。同じく上京していた地元の先輩に誘われて参加してしまったらしいんです。その先輩の男は詐欺グループにいたことがあり、そこでノウハウを盗んで独立したようですが……」
先輩が作った詐欺グループを仕切っている人間たちも20代前半の男たちだったという。捕まった青年は大学生ではなかったが、このような若者たちの犯罪集団は無数に存在しており、なかには大学生が参加していることもあるようだ。

◆中高生まで…犯罪の低年齢化を危惧
「昔はセパレートしていた表社会と裏社会が渾然一体となって交じり合いつつあり、いまでは犯罪や反社会勢力が近い存在となっています」
その結果として裏社会の現場に大学生が増えているわけでもあるが、さらに草下氏は犯罪の低年齢化を危惧する。
「いまは大学生にとどまっていますが、高校生、さらには小中学生が犯罪組織の一員となれば摘発は困難になる。海外マフィアでは小学生がクスリの運び屋として使われていますが、日本においてもそのような未来はそう遠くないところにきている気がします」
表社会に希望を見出せず、裏社会にすがる若者が増えていく。この状況が続けば、さらに混沌とした社会へと移り変わっていきそうだ。<取材・文・撮影/國友公司>

【PROFILE】草下シンヤ/1978年、静岡県出身。豊富な人脈を活かした裏社会取材を得意とし、『実録ドラッグレポート』『裏のハローワーク』などの著作がある。現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて『ハスリンボーイ』(原作担当/漫画・本田優貴)を連載中


日刊SPA! / 2018年8月30日 15時55分