有楽町線に乗って、久々に地下鉄成増という駅が目に入った。


東京に来て最初に住んでいた街。
なぜそんなところに住むのかいろんな人に可笑しがられた。劇場から遠いし埼玉県との県境。
今はもういない、2回ほどしか会ったことのない後輩芸人におすすめされて鵜呑みにして住んだ街。


けど副都心線沿いでほとんどの主要駅に定期を使って一本で行ける。(渋谷でバイトしてたので)


そしてのどか。でものどかゆえにファミリーの香りに溢れすぎて上京したての私にその多幸感はキツかった。


立川のIKEAで買った家具を、配送料がもったいないので自力で成増まで持ち帰った。はじめてのおつかいさながらの半泣きと手のひらの痛み。脳内にはしょげないでよbaby〜♪と音楽がかかってた。



蛍光灯をセッティングするにも台になる椅子や机すらなかった。蛍光灯が入っていた段ボールに乗ってみるも、ただ段ボールが潰れただけだった。


日が暮れるまでにと、必死で何とか蛍光灯を取り付けた。


自転車で県境をまたぎ、ニトリに衣装ケースを買いに行った。ニトリを出ると、さっきまで降ってなかったのに雨。なぜ。自転車の荷台に衣装ケースを乗せようとするが滑って落ちる。高校生くらいのバイトの男の子が、荷造りロープを持ってきて自転車の荷台にくくりつけてくれた。優しさに涙が出た。見られてしまっては気持ち悪過ぎると、上を向いて泣いた。胸のネームプレートで名前を確認した。手紙を書こうと思ったからだ。だがシンプルにそれは気持ち悪いと思って書かなかった。



虫が大嫌いなのにエレベーターに常にカナブンが乗っていた。


エレベーターを降りると部屋の前にもカナブンが待っていた。



なぜか毎日カナブンがどこかで私の帰宅を待っていた。




ゼロから始めて何もなくて、何もなさすぎて、寂しさだけがあって、時間もなければお金もなくて、野心だけがあって、友達もいなくてみじめさだけがあって、徹夜明けにバイトに行って、深夜稽古に行って朝方、ネットカフェでバイトまでの時間をつぶして、俺物語を読みながら、俺物語とは関係ない理由で泣いて、謎に老けた日を思うと、今はじゅうぶん幸せかもしれない。



行動にも結果にも満足いかなくてゴールになかなか辿り着けなくて、でもあの頃よりは前進している。



お金はない。でも仕事はある。



売れてはない。でも光は見える。



今こそ頑張る時だ!!
あの日々には戻りたくない…!!





さらば成増