いつもご覧いただきありがとうございます。
ふくだあやレディースクリニック院長の福田綾です。
「生理の1週間くらい前になると、イライラして家族にきつく当たってしまう」
「なんだか落ち込んで、涙が出てくる」
「胸が張って、体が重くて、何もやる気が起きない」
そして生理が始まると、うそのようにすっと楽になる。
こうした症状を繰り返している方は、PMS(月経前症候群)かもしれません。今回は、PMSがなぜ起こるのかという最新の考え方と、受診の前にぜひやっていただきたい「短いメモ」についてお話しします。
PMSは「ホルモンの量の異常」ではありません
「私はホルモンバランスが乱れているのでは」と心配される方が多いのですが、実は、PMSがある人とない人で、血液中のエストロゲンやプロゲステロンの値には差がないことが研究でわかっています。
びっくり!
では何が違うのか。現在の医学では、PMSのある方は、月経周期にともなう「正常なホルモンの変動」に対して脳が敏感に反応してしまう(感受性が高い)、と考えられています。
ホルモンの量が異常なのではなく、ホルモンの変化に対する反応の仕方が人によって違う、ということです。
なぜ「生理前」だけ症状が出るのか
PMSの症状は、排卵後から生理前までの「黄体期」に現れ、生理が始まると軽くなるか消えていきます。
初経を迎える前、妊娠中、閉経後には症状が出ないことから、エストロゲンとプロゲステロンが周期的に上がったり下がったりすること自体が、発症の中心にあると考えられています。
脳の中で起きている2つのこと
少し専門的になりますが、脳内では主に2つの仕組みが関わっていると考えられています。
① セロトニン
気分の安定に関わる神経伝達物質です。セロトニンを増やす薬(SSRI)がPMSの症状に効果を示すこと、セロトニンの材料となるトリプトファンが不足すると症状が悪化することから、セロトニン系の関与が支持されています。
② アロプレグナノロン(ALLO)
プロゲステロンが体内で代謝されてできる物質で、脳の「落ち着き」に関わるGABA-A受容体に強く作用します。この反応の仕方が、生理前の不安やイライラに関係していると考えられています。
この2つは別々に働いているのではなく、互いに関連しながら気分や体調の変化を引き起こしていると理解されています。
「気のせい」でも「性格」でもありません
PMSの症状は、月経周期という生理的なリズムに対する脳の反応として起こる、身体的な仕組みに基づいた症状です。
「我慢が足りない」「気の持ちよう」ではありません。つらい症状を毎月ひとりで抱え込む必要はなく、婦人科で相談できることだということを、まず知っていただきたいと思います。
受診の前に:生理前のつらさを、短いメモに
PMSの診断でいちばん大切なのは、「症状がいつ出て、いつ消えるか」と月経周期との関係です。
症状が生理前に限って現れ、生理が始まると軽くなる——このパターンがはっきり見えると、PMSとほかの原因(甲状腺の病気、うつ病、貧血など)を見分けやすくなります。ACOGのガイドラインでも、2周期以上の症状記録が診断の基本とされています。
メモの内容は、ごく短くて大丈夫です。
毎日1行だけ書くメモの例
□ 日付
□ 生理が始まった日・終わった日(その日だけ印を)
□ いちばん気になった症状(イライラ、落ち込み、胸の張り、頭痛、むくみ、眠気など)
□ つらさの程度(0〜3の4段階、または◎○△×)
スマホのメモ帳やカレンダーアプリ、生理管理アプリで十分です。2か月分あれば、診察のときにとても役立ちます。
当院でできること
症状や生活スタイル、妊娠のご希望などに合わせて、次のような選択肢からご相談しながら決めていきます。
- 低用量ピル・LEP:排卵を抑えてホルモンの変動を小さくします
- 漢方薬:体質や症状の出方に合わせて選びます
- SSRI:気分の症状が強い場合に、黄体期だけ内服する方法もあります
- 生活面の工夫:睡眠、食事、運動、カフェインやアルコールの調整
「毎月つらいのが当たり前」になってしまっている方、まずは短いメモから始めて、お気軽にご相談ください。
まとめ
- PMSは「ホルモンの量の異常」ではなく、正常なホルモン変動への脳の感受性の違い
- セロトニンとアロプレグナノロン(GABA)の2つの仕組みが関わっている
- 「気のせい」ではなく、身体的な機序に基づく症状
- 診断には症状と月経周期の関係を記録することが重要
- 毎日1行のメモを2か月分、受診時にお持ちください
産婦人科専門医 福田綾 監修
参考文献
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- Ortiz Worthington R, Eastman LM, Alexander JT. Summary of ACOG Guideline on Management of Premenstrual Disorders. JAMA. 2026.
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- Bäckström T, Bixo M, Johansson M, et al. Allopregnanolone and mood disorders. Prog Neurobiol. 2014.(レビュー)
- Bixo M, Stiernman L, Bäckström T. Neurosteroids and premenstrual dysphoric disorder. Br J Psychiatry. 2026.(レビュー)
- Xu M, Chen J. Integrated management of premenstrual dysphoric disorder: the role of traditional Chinese medicine. Depress Anxiety. 2025.(レビュー)

