もうすぐ一年生、もうじき生まれる。
蕾がついた、花が咲いた。
そんな日々の楽しみが、そこにもあった。
運ぶ人、売る人、買い手と言葉をかわし、働く人々が行き交う。
よろしく、ありがとう、また会おうの約束。
そんな当たり前の暮らしが、そこにもあった。
あの日、津波が連れ去った町。
君がいた町。
2012年1月、名取市閖上にて。
かつては、住宅と商店が通りの左右に軒を並べていた。
津波後、建物はまばらになり、残っている建物も壊れている。
震災後に、鮮魚店の隣は空き地になってしまった。
そこには、数件の建物が並んでいて、相馬屋菓子店や佐々木酒造などがあった。
さらに奥の港のほうへと進むと、あんなにあった住宅や店が、みんな消えている。
以前は、建物がいっぱいで、通り一本向こうで見えなかった東禅寺が、空き地の中にぽつんと見える。
震災翌年には、壊れた建物の片づけが進み、さらに奥にある日和山までが、お寺の背後に見えてしまうほど、何もかもが無くなってしまった。
閖上の日和山は、鎮魂の場所となっている。
日和山から日和橋へ向かう途中、かつてはここにも住宅や店がたくさんあった。
家族で食事したことのある寿司屋も、何もかもが無くなっている。