初めて寄ったのは、震災前のことで、昨年の11月であります。その時、ちょっとした宝探しのような気分を味わったものでございました。
「本当に、ここにあるのだろうか?」
看板はあれど、そこから道の奥を覗いたところで、店など見当たらないのでございます。
どうも、この先は、人の家に入っていくようでありますから、行こうか行くまいか、看板の前でうろうろ致しまして、
「やっぱり行ってみよう」と、足を向けたのでした。
それでも、初めは若干開けた砂利敷きの場所で、威勢良く進みましたが、
やはり人の家の敷地らしきところへ差し掛かりまして、
「戻ったほうがいいかな?」と、とたんに足取りが恐る恐るといった具合になります。
ですが、そこはもう、もしかしたら先に美味しいものが待っているかもしれないという期待がございますから、やはり引き返さずに、身を縮めながらも前へ前へと進みました。
やがて、民家の玄関先に、小さな標識を見つけます。
「あ、矢印が有る」ほっとして、印に従って進むと、
「あった!」そこに、工房がありました。
思い切って呼び鈴を鳴らし、招き入れられて、
「良かった、『注文の多い料理店』ではなかったぞよ」と、内心つぶやきながら喜んで買い求めました。
その味わいは、実に素晴らしかったのでございます。
さすがに、吟味された素材だけあって、チーズの旨みがしっかりと出ております。
チーズの好きな手前には、もう、躍り上がるような心地でございました。
「杜の都のチーズケーキ工房YUZUKI」さんのチーズケーキは、表現したい味にたどり着くまで、捜し求めて吟味されたクリームチーズとサワークリーム、バターや新鮮な指定農家の卵などで、丹念に作られていました。
後で知りましたが、ここのケーキは、ララガーデン長町の藤崎セレクションコーナーでも販売され、通信販売もされていました。
でも、奥の道に分け入って、見つけた喜びは大きく、町は愉快な出来事をくれるものだなぁと、感謝しつつ
「行って良かったなぁ」と思う、手前なのでございました。
それと、この工房では、震災直後にも町の人々に元気を出してもらおうと、焼き菓子を作って長町商店街の一角で販売しておりました。
4月の初めは、やっと買い物もしやすくなってきた頃ですが、余震も頻繁で、非常時の暮らしの疲れが出る頃でもありました。
そんな中、美味しい菓子を食べられ、ほっとしたのを思い出します。
そういえば、やっぱりこの時も、矢印に従って行ったら、いい物があったのでありました。