話が前後しますが、こうして25年生きたフーコとシマとその娘のチョビの生活は一年あまり続きました。次の年の瀬フーコはシマたちにバトンタッチするかのように旅立ちました。ところで、今回はシマが我が家の仏壇に決死のダイビングをした経緯をお話しします。大まかなシナリオは主の強い思い込みで編集してはいますが。ご近所の情報(主として動物好きの主婦たちによる情報網)によればその年の雪解け頃、そうまだ春には間のある三月、二匹のサバトラが南町を彷徨っていました。もっと早く、雪の多い頃捨てられたらしい。大柄の逞しいサバトラと痩せてひ弱なサバトラ。どうやら兄妹のようでした。二人は助け合い、寒さから身を守るため、雪のない空洞や下水溝で夜を過ごし、ヤチネズミなどの狩りをしたりして生命を繋いでいたようです。別の主婦の目撃証言があります。ある夕方、もう夕闇が迫る頃森に向かって黒い影が素早く消えていきました。そのあと少し小ぶりの塊が追いかけるように雪山を登っていくのが見えたそうです。逃げて行ったのはキタキツネ、キタキツネは真冬、いつもお腹をすかしています。何かの拍子で、二匹のサバトラに遭遇したのでしょう。ネコとキタキツネではまるで格が違います。かなうわけはありません。でもその時は明らかに逃げていったのはキタキツネで追いかけて行ったのは大柄のサバトラでした。ひ弱な妹を守るために、必死の反撃だったのでしょう。また、大柄のサバトラは愛想良く、雪が溶けて樹々が芽吹く頃には、数軒の家の優しい主婦たちからごはんをもらっていたようです。いつも妹の食べるのを待っていました。あとでわかったのですが、大柄のサバトラはI家に引き取られ、チャチャと命名されました。そして妹の仏壇突入となったのです。思うに、シマは自らの身体の異変(妊娠}に気付き、落ち着くことのできる出産場所を探していたのだと思われます。シマはフーコのネコ柄を見切ったのかもしれません。シマの産んだ子ネコ三匹のうちチャトラとシロクロの二匹はすぐに里親が見つかり二ヶ月後には出て行きました。一番おてんばだった、母ネコシマと同じサバトラはちょびひげの模様から、チョビ・コーデリアの名をもらいました。シマも正式にはシマ・エリザベートとなりました。