「イスラエルの王誕生」のテーマは前回で終える予定だったが、二代目の王ダビデについて書かないと片手落ちになると思ったので、今回ダビデ王就位までを書かせていただいて、このテーマを終わりたいと思う。


一代目の王サウルは、神様の御導きによって敵国を破り、名実ともにイスラエルの王となったが、その後、2度にわたって神様の御命令に背いてしまう。

 

サウル王の1度目の失敗
 

1度目は、ペリシテ軍が攻めてきた時だった。

ギルガルの地で踏みとどまっているサウル王に、祭司サムエルは7日間待つように命じた。

しかし7日間経ってもサムエルは現れず、陣を去る兵も出てきた。

ペリシテ軍が近くにせまっているのに、まだ神様に祈願をしていない。

そう思ったサウル王は、祭司しか許されていない捧げ物の務めを、自分で行なってしまったのである。

 

捧げ物をし終えた時、サムエルは到着し、「あなたは何をしたのか」とサウルに問うた。

サウルは、自分で捧げ物をした理由をサムエルに話した。

 

するとサムエルは、

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あなたは愚かなことをした。

あなたの神、主がお与えになった戒めを守っていれば、主はあなたの王権をイスラエルの上にいつまでも確かなものとしてくださっただろうに。

しかし、今となっては、あなたの王権は続かない。

主は御心に適う人を求めて、その人を御自分の民の指導者として立てられる。

主がお命じになったことをあなたが守らなかったからだ。

(サムエル記一 13:13-14)

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とサウルに告げた。

 

サウル王の2度目の失敗

2度目の失敗は、イスラエル軍がアマレク軍を破った時である。

神様より聖絶を命じられていたにも関わらず、敵国の牛や羊から上質なものを選び、部下たちと一緒に持ち帰ってしまった。

すると、神様が、祭司サムエルに現われて仰せになられた。
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わたしはサウルを王に立てたことを悔やむ。
彼はわたしに背を向け、わたしの命令を果たさない。

(サムエル記一 15:11)

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サムエルは深く心を痛めた。
翌日、サムエルがサウル王に会い、神様の御命令に背いたことを指摘すると、サウルは言い訳をし、「兵士が主への供え物にしようと、最上の羊と牛を戦利品の中から取り分けたのです」と言った。

 

するとサムエルは、

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主が喜ばれるのは焼き尽くす献げ物やいけにえであろうか。

むしろ、主の御声に聞き従うことではないか。

見よ、聞き従うことはいけにえにまさり、耳を傾けることは雄羊の脂肪にまさる。

(サムエル記一 15:22)

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と言った。

そして「主の御言葉を退けたあなたは王位から退けられる」とサウルに告げた。

するとサウルは、

兵士を恐れ、彼らの声に聞き従ってしまいました。

どうぞ今、わたしの罪を赦し、わたしと一緒に帰ってください
と必死にあやまったが、サムエルは、

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今日、主はイスラエルの王国をあなたから取り上げ、あなたよりすぐれた隣人にお与えになる。

イスラエルの栄光である神は、偽ったり気が変わったりすることのない方だ。

この方は人間のように気が変わることはない。

(サムエル記一 15:28-29)

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と、受け付けなかった。

 

油を注がれた少年ダビデ

サムエルがサウル王のことで心を痛めていると、神様はサムエルに、
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いつまであなたは、サウルのことを嘆くのか。
わたしは、イスラエルを治める王位から彼を退けた。
角に油を満たして出かけなさい。
あなたをベツレヘムのエッサイのもとに遣わそう。
わたしはその息子たちの中に、王となるべき者を見いだした。

(サムエル記一 16:1)

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と仰せになられ、エッサイのもとに、サムエルを遣わされた。

そして神様から選ばれた、エッサイの末っ子、羊飼いの少年ダビデに油が注がれ、彼に神の霊が宿った。

一方、サウル王から神の霊は離れ、代わって悪霊が彼を悩ますようになったのである。

悪霊に悩まさたサウル王は、心をなぐさめるために、竪琴の名手を探すように家臣たちに命じ、見つかったのが竪琴を弾く少年ダビデだった。
それ以来、ダビデは羊飼いの手伝いのかたわら、、サウルに仕え、そばで竪琴を奏でると、サウルの心は安まり、悪霊が離れていった。

 

巨人兵士ゴリアテとダビデの戦い

ある日、イスラエルとペリシテの両軍が対峙した時、ペリシテの巨人兵士ゴリアテは、イスラエル軍をさげすみ、「俺と一騎打ちをしろ」と言ってきた。

ゴリアテが勝てばイスラエル兵が奴隷に、イスラエル兵が勝てばペリシテ兵が奴隷なる、という一騎打ちの勝負を挑んできたのである。
イスラエル兵はゴリアテを恐れ、戦おうとする者はいなかった。


するとそこに、少年ダビデが現われ、ゴリアテの挑戦を受けて立ったのである。

ダビデは剣も鎧もつけず、「杖」と「石投げヒモ」しか持っていない。
石投げヒモとは、細長い布で石を振り回して飛ばす投石器で、獣から羊を守るための道具である。

巨人ゴリアテは、ダビデをさげすんで言った。
おれは犬か。杖を持って向かってくるとは、さあ来い、お前の肉を空の鳥や野の獣にくれてやろう

するとダビデは、
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お前は剣や槍や投げ槍でわたしに向かって来るが、わたしはお前が挑戦したイスラエルの戦列の神、万軍の主の名によってお前に立ち向かう。
今日、主はお前をわたしの手に引き渡される。

わたしは、お前を討ち、お前の首をはね、今日、ペリシテ軍のしかばねを空の鳥と地の獣に与えよう。

全地はイスラエルに神がいますことを認めるだろう。
主は救いを賜るのに剣や槍を必要とはされないことを、ここに集まったすべての者は知るだろう。

この戦いは主のものだ。

主はお前たちを我々の手に渡される。
(サムエル記一 17:45-47)

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少年の言葉ではない。
ダビデがいかに神がかっていたかが分かる。

 

(ミケランジェロのダビデ像は、ゴリアテに向かって、今まさに攻撃しようとしている姿で、石投げヒモに引っ掛けた石を左肩に乗せ、背中に垂れたヒモの先端は右手にある)

ダビデは近づく敵に走り寄り、石投げ紐で石を飛ばすとゴリアテの額に命中して食い込んだ。
うつ伏せに倒れたゴリアテの剣を奪い、とどめを刺して首を切った。
瞬殺されたゴリアテを見てペリシテ人たちは逃げ出し、イスラエル軍は追いかけて勝利した。


ダビデに嫉妬したサウル王

ゴリアテとの戦い以来、ダビデが出陣するといつも勝利を収めた。
常に先頭に立って出陣し、帰還するダビデの勇姿を、女たちは歌い踊りながら迎え、

サウルは千を討ち、ダビデは万を討った」と讃えた。
 

それを聞いたサウルは激怒し、ダビデに嫉妬した。

さらにダビデの活躍が続くと、次の王はダビデになることをサウルは予感した。
すると嫉妬心は恐怖心となり、殺意に変わった。


ダビデは逃げ、サウルは追った。

しかし、神様の御守護の下にあるダビデを捕らえることは出来ず、逆にサウルが何度もダビデに追い詰められたが、その度ごとに、ダビデはサウルを逃がすのである。
神様に油を注がれたサウルを殺すことは、ダビデにはできなかったのだ。

その都度サウルはダビデに感謝し、自分の罪を悔いるのだが、すぐ元に戻る。

ダビデの勇敢さと人徳に民は心引かれ、サウルの息子ヨナタンまでもが、ダビデに忠誠を誓って助けた。


いっぽうサウル王は、祭司アヒメレクがダビデを助けたことを知ると、祭司たちとその町の人々や家畜まで殺した。人心はますます離れ、サウル王には相談相手がいなくなった。


その後、ペリシテ軍に攻められたサウルは窮地に立たされ、状況を打開する方法を神様にうかがっても、神様は答えてくださらない。

祭司サムエルも、すでに他界している。

 

霊媒師を訪ねたサウル王


困ったサウルは、変装して王であることを隠し、なんと霊媒師を訪ねたのである。

霊媒は律法で禁じられているため、霊媒師は警戒したが、本気だと知ると、依頼どおりサムエルの霊を呼んだ。するとサムエルが本当に現れ、目の前にいるのがサウル王と知った霊媒師は仰天して叫んだ。

 

しかしサウルが「恐れることはない。それより何を見たのだ」と言うと、

霊媒師は、「神のような者が地から上って来るのが見えます。老人が上って来ます。上着をまとっています」と答え、サウルはそれがサムエルと分かり、顔を地に伏せて礼をした。


サムエルの霊は言った
なぜわたしを呼び起こし、わたしを煩わすのか
サウルは、「困り果てているのです。ペリシテ人が戦いを仕掛けているのに、神はわたしを離れ去り、もはや預言者によっても、夢によってもお答えになりません。あなたをお呼びしたのは、なすべき事を教えていただくためです

するとサムエルの霊は、
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なぜわたしに尋ねるのか。主があなたを離れ去り、敵となられたのだ。
主は、わたしを通して告げられた事を実行される。

あなたの手から王国を引き裂き、あなたの隣人、ダビデにお与えになる。
あなたは主の声を聞かず、アマレク人に対する主の憤りの業を遂行しなかったので、主はこの日、あなたに対してこのようにされるのだ。
主はあなたのみならず、イスラエルをもペリシテ人の手に渡される。

明日、あなたとあなたの子らはわたしと共にいる。

主はイスラエルの軍隊を、ペリシテ人の手に渡される。
(サムエル記一 28:16-19)

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サムエルの言葉にサウルは恐れ、その場で倒れた。
その後、サムエルの霊が語ったとおり、サウル王と、ヨナタンはじめ3人の息子たちはペリシテ軍との戦いで倒れ、イスラエル軍は敗退し、イスラエルの民も逃げた。
その知らせを聞いたダビデは、心を痛めて泣き、夕暮れまで断食をした。

そしてその後、ダビデ王の時代になるとイスラエルは栄え、後を継いだ息子のソロモン王の時代には、神殿と王宮が建てられて、イスラエル王国は大いに繁栄したのである。

人間を恐れたサウルと、神を恐れたダビデ

サウル王とダビデ王の違いは、何だったのだろう。

サウル王は、神様に背こうという意志があったわけではない。

しかし、背く結果となってしまった。
祭司サムエルを待ちきれずに勝手にささげ物をしたのも、禁じられている敵の家畜を持ち帰ったのも、家臣や兵を恐れ、人間事を優先させてしまった結果である。

 

神様に忠実であるべきイスラエルの王でありながら、

神様よりも人間を恐れ、神様の御命令よりも自分の考えを善とした

そのために、神様の霊はサウルから離れ、代わって悪魔の支配を受けるようになった。

すると、サウルの言動は狂気を帯び、別人になってしまったのである。


しかしダビデは違った。

誰よりも神を恐れた。

ダビデはサウル王から命を狙われ続けたのに、サウルを追い詰めながらも逃した。

その理由は、ダビデはサウルの家臣であり、サウルの息子のヨナタンは無二の親友であった、ということもあるだろうけれども、サウルを殺さなかった一番の理由は、サウルは神様が油を注がれた人だったからである。
つまり神様への恐れからであり、それがダビデとサウルの大きな違いだった。

ダビデはその生涯の中で罪も犯したが、罪の報いを潔く受け入れた。

そして過ちに対する悔い改めも早く、歴代のどの王よりも神様に忠実であった。

しかし、息子のソロモン王の晩年以降は、また、さまざまな問題がイスラエルに起こる。

どのような歴史も、「これで全て大丈夫」とか、「これで何もかも終わった」という終着点は無いのだろう。

 

そこで次回は、「歴史」ということをテーマに考えてみたいと思う。