前回は、イスラエルの預言者エリヤ1人と、バアルの預言者450人との戦いの場面を中心に書かせていただいた。

今回は、その続きを書かせていただきたいと思う。

失意のエリヤ

神様の偉大な御力によってエリヤはバアルの預言者に勝利し、

北王国から偶像崇拝は一掃されるかと思われた。

しかし、そうはならなかったのである。

王妃イザベルはひるむどころか、

「わたしが明日のこの時刻までに、あなたの命をあの預言者たちの一人の命のようにしていなければ、神々が幾重にもわたしを罰してくださるように」
という怒りの言葉を、使者をつかってエリヤに届けた。

イゼベルが誓った神々とは、もちろん偶像の神々のことである。

事前に殺害予告をするなど、実にイゼベルらしいが、それによってエリヤは逃げることができた。

しかしエリヤは失意の底にあった。

命がけで神様に仕え、バアルの預言者に勝利したエリヤは、

これでアハブ王も改心し、イスラエルの民も神様に立ち返ると信じていたに違いない。
しかしそうはならなかった。

エリヤは逃げる途中の荒れ野で、えにしだの木の下に座り、自分の命が絶えるのを願って言った。
「主よ、もう十分です。わたしの命を取ってください。

わたしは先祖にまさる者ではありません。」
と言って眠った。

するとそこに主の御使いが現れ、「起きて食べよ」と言われた。
見るとパン菓子と水の入った瓶が置いてあり、エリヤはそれを食べて飲み、また横になった。
御使いは再び現れてエリヤに触れ、

「起きて食べよ。この旅はあなたには耐え難いからだ」

と言われた。
エリヤは食べて飲むと元気になり、それから40日40夜歩き続けて、「神の山ホレブ」についた。
 

神様から問われたエリヤ


「神の山ホレブ」とは、神様がモーセに御降臨された山であり、またモーセに十戒を授けられた山である。

シナイ山ともいう。

ホレブの山に着いたエリヤは、そこにあった洞窟で一夜を過ごした。

そのときエリヤに、神様のお言葉があった。
「エリヤよ、ここで何をしているのか」
エリヤは答えた。
「私は万軍の神、主に情熱を傾けて仕えてきました。

ところが、イスラエルの人々はあなたとの契約を捨て、祭壇を破壊し、預言者たちを剣にかけて殺したのです。わたし一人だけが残り、彼らはこのわたしの命をも奪おうとねらっています。」

このエリヤの言葉から、
バールの預言者との戦いの後に、何があったのかを知ることができる。

エリヤがバアルの預言者に勝ったとき、イスラエルの民たちは、
「主こそ神です。主こそ神です」

と主を讃えた。

そのようにイスラエルの神を讃えた民たちが、手のひらを返したように祭壇を破壊し、イスラエルの預言者たちを剣にかけて殺したと言うのである。
そしてさらに、エリヤの命をも奪おうとしているのだ。
王妃イゼベルの命令だったことは間違いないだろうが、そのことを知ったエリヤの失意の大きさは、相当なものだったと思う。
神様に訴えるエリヤの言葉から、その思いが伝わってくる。

すると神様は、
「そこを出て、山の中で主の前に立ちなさい」
と仰せになられ、激しい風、地震、火が起こり、静かにささやく声が聞こえた。

エリヤは外套で顔を覆い、洞穴の入り口に立つと、再び神様の声が聞こえた。
「エリヤよ、ここで何をしているのか。」
と、神様は先ほどと同じことをエリヤに問われたのである。


そしてエリヤも同じことを繰り返し答えているのだ。

「私は万軍の神、主に情熱を傾けて仕えてきました。

ところが、イスラエルの人々はあなたとの契約を捨て、祭壇を破壊し、預言者たちを剣にかけて殺したのです。わたし一人だけが残り、彼らはこのわたしの命をも奪おうとねらっています。」

神様の前に立つエリヤと、神様の御慈愛


この、神様の「同じ問い」と、エリヤの「同じ答え」の繰り返しは、何を意味しているのだろうか?

 

私はこう思うのである。

神様は、一度目にエリヤが答えた後、
「そこを出て、山の中で主の前に立ちなさい」

と仰せになられた。

そのことから、神様の御心を拝察申し上げれば、
申し述べたいことがあるなら、洞穴から出て、しっかりと我の前に立って申し述べよ。
という神様の御心だったと思うのである。

エリヤは、失意のどん底にあっても、

「神様に思いを訴えて、御心を仰ぎたい」

という一心から、40日40夜歩き続け、神の山ホレブまで来たと思うのである。

しかしホレブ山に着いたエリヤは、すぐに神様の前に立つことを躊躇したのか、洞穴で一夜を明かしている。
神様は、そのようなエリヤの心を見通され、

「洞穴に隠れながら答えるのではなく、しっかりと主の前に立って申し述べよ」

という励ましのお言葉だったのではないだろうか。
エリヤよ強くあれ、という神様の御慈愛の御言葉と、拝察申し上げるのである。

ホレブの山に来る道中、エリヤに御使いを遣わされたのも神様の御慈愛であり、

エリヤがホレブの山で神様の前に立つことを、

神様は、ずっとお待ちになっておられたのではないだろうか。

エリヤに下されれた新たな使命

さて、そうして、神様の前に立ったエリヤに、

神様は新たな使命を与えられた。


「行け、あなたの来た道を引き返し、ダマスコの荒れ野に向かえ。
そこに着いたなら、ハザエルに油を注いで彼をアラムの王とせよ。
ニムシの子イエフにも油を注いでイスラエルの王とせよ。
またアベル・メホラのシャファトの子エリシャにも油を注ぎ、あなたに代る預言者とせよ。
ハザエルの剣を逃れた者をイエフが殺し、イエフの剣を逃れた者をエリシャが殺すであろう」


エリヤに与えられた使命は、3人の任命だった。
①アラムの王にハザエルを立たせること。
②北王国イスラエルの王に、イエフを立たせること。
③エリヤの後継者を、エリシャに継がせること。

単なる人間が行う人事とは違い、神様の御言葉による任命であり、

尚且つ、とても厳しい内容である。

今回のご命令は、アハブ王を悔い改めさせるためのご命令ではない。

罪に染まった王朝を滅ぼすためのご命令だったのだ。

続いて神様は、
「わたしはイスラエルに七千人を残す。

これは皆、バアルにひざまずかず、これに口づけしなかった者である」
と仰せになられた。

「イスラエルの民は、全員が偶像を崇拝するようになってしまった」

そう思っていたエリヤにとって、偶像崇拝に染まらない七千人を残された、という神様のお言葉は、大きな励ましであったに違いない。
それ以来、エリヤの失意は消え去り、不動の心を持つ偉大な預言者として、

神様から再び遣わされたのである。

エリヤは、神様のお言葉に従って、アベル・メホラのシャファトの子エリシャに会い、

エリシャはエリヤに従い、仕えた。


列王記の記述では、ここで一旦、エリヤの話は中断する。

そして突然場面が代わって、北王国とアラム国との戦(いくさ)の話に入るのである。

この戦の話に、一瞬戸惑ってしまう。

突然場面が変わったからではない。
この戦で、神様は、あのアハブ王を助けられ、とても不利だった戦いを、大勝利に導かれるのである。
「なぜだろう?」
一瞬、読み間違いではないかと思ったが、確かに神様はアハブ王を助けられた。

神様はアハブ王に、最後のチャンスを与えられたのかも知れない。
しかしやはり、アハブ王は神様に忠実にはなれなかったのである。

次回は、そのアラム国との戦いの話から、続きを書かせていただきたいと思う。