前回は、聖書を読むにあたって、何が分かっていると読みやすいか、ということについて書かせていただいた。

 

それは、
①どのような時代背景だったか?
②誰が、誰に、何のために書いたか?

ということである。

そこで、今回と次回の2回にわたり、「聖書には何が記されているか」について書かせていただきたいと思う。

 

旧約聖書も新約聖書も、初めから一冊の書物として出版されたものではなく、いくつかある書物の中から、後世の人が正典と定めたものを1冊にまとめたものである。

 

聖書を初めて読むときは、人名も、地名も、当時の文化も知らないから、難しい書物のように思えてしまうが、全体の流れをだいたい把握してから読むと、その場面の時代背景が理解できて、興味深く読めるようになってくる。

 

 

「旧約聖書」は3つの宗教の教典


絶対の神様を信仰している次の3つの宗教の教典は下記の通りである。

1.ユダヤ教 「旧約聖書」と「タルムード」
2.キリスト教 「旧約聖書」と「新約聖書」 
3.イスラム教 「旧約聖書」と「コーラン」 


「旧約聖書」は3つの宗教に共通し、旧約聖書の「創世記」に登場するアブラハムは、3つの宗教から「信仰の父」として尊敬されている。

そしてユダヤ人もアラブ人も、アブラハムの子孫である。

 

では、この3つの宗教は、イエスをどのように見ているのだろうか?

○ユダヤ教では、イエスはメシアでも預言者でもない。

○キリスト教では、イエスはメシア(救い主)であり、さらに神として崇められている。

○イスラム教では、イエスは預言者の一人とされている。

 

また、3つの宗教の信徒の数を比較してみよう。
現在、世界には77億人の人たちがいるが、そのうち、

◇ユダヤ教徒は1400万人

◇キリスト教徒は20億人

◇イスラム教徒は16億人、

3つの宗教を合わせると36億人を超える。
つまり、世界の半分近くの人は、「旧約聖書」を教典とする宗教を持っていることになり、聖書を読むことは、信仰的な学びだけでなく、国際社会における教養の一つと言えるだろう。

聖書には何が書かれているか

聖書の内容は、次の通りに分類されている。

~旧約聖書~


◇モーセ五書
旧約聖書の

「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」

の5つの書を「モーセ五書」と言い、モーセが書いたと言われている。

別名を「トーラー」、または「律法の書」とも呼び、旧約聖書の中で最も重要な書である。

神様がイスラエル民族に与えられた律法は、すべてこのモーセ五書の中に記されている。


よって、イスラエル民族の歴史は、この「モーセ五書」に書かれた立法が基準となる。

律法に従って神様の祝福を賜ったり、律法から外れて神様から罰せられたり、

そのような紆余曲折を繰り返しながら、イスラエルの歴史は刻まれていくのである。


◇歴史書
「ヨシュア記」から「エステル記」までの12の書は、歴史書として分類される。
これらの歴史書は、モーセの後継者であるヨシュアの時代から、最後の預言者マラキの頃までの、約800年間の歴史を記した書である。

◇詩書
「ヨブ記」から「雅歌」までの5つの書は詩書として分類される。

◇預言書
「イザヤ書」から「マラキ書」までの17の書は預言書である。
ソロモン王が亡くなると、イスラエル王国は、北王国と南王国に分裂する。

その後、イスラエル民族の信仰は堕落していくのだが、その時代に、神様は、民を律法に立ち返らせるために、何人もの預言者を遣わされた。

その預言者たちによる書が、この17の預言書である。

~新約聖書~
◇福音書

「マタイによる福音書」~著者は、十二使徒のマタイと言われている。
「マルコによる福音書」~著者は、十二使徒のペトロから聞いたことをマルコが記録したと言われている。
「ルカによる福音書」~著者は、パウロの協力者の医師ルカだと言われている。
「ヨハネによる福音書」~著者は、十二使徒のヨハネと言われている。
この4つの書は、イエスの生涯を書き記したもので、新約聖書の中でもっとも重要な書である。

◇歴史書
「使徒行伝」~著者はルカと言われている。

◇パウロの手紙
「ローマ人への手紙」から「ピレモンへの手紙」までの13の手紙。

◇公同書簡
「ヘブル人への手紙」から「ユダの手紙」までの8つの書。

◇預言書
「ヨハネの黙示録」~福音書を書いたヨハネではないかと言われているが、反対意見も多く、実際は不明。当時、ヨハネという名前は多かったという。

旧約聖書と新約聖書は、以上の書によって構成されている。


旧約聖書と新約聖書の違い

また、旧約聖書と新約聖書では、次の点で大きく違う。

1.記述されている歴史の長さの違い
旧約聖書は主にイスラエル民族の歴史書で、天地創造から始まる。
アダムとイブ、ノアの箱舟の話は、いつの時代かは不明だが、アブラハムの時代は紀元前2000年頃と言われている。
アブラハムの時代以降を対象と考えても、最後の預言者マラキの時代に至るまで、約1600年間のイスラエルの歴史が記されている。

それに対して新約聖書の福音書は、イエス生誕から約30年間の記録であり、そのほとんどが、イエスが伝道に入られてから処刑されるまでの約3年間の奇蹟と教えの記録である。

 

対象としている期間と情報量は、圧倒的に旧約聖書の方が多い。

2.著者の違い
旧約聖書は、モーセをはじめ、主に「預言者」によって書かれた書物だが、
新約聖書は、主に「イエスの弟子」たちによって書かれた書物である。


旧約聖書は、神様が預言者に啓示されたお言葉と教えが、「主は仰せられた・・・」という形でそのまま記されている。

しかし新約聖書は、イエスの弟子たちによって書かれた書物であるため、教えのほとんどは「イエスが語られた・・・」というように、イエスの言葉として語られている。

 

新約聖書と旧約聖書では、以上のような違いはあるが、けっして別々の書物ではない。

新約が新しい契約だから、新約だけ読めば良いというものではない。

 

イエスは、

「わたしが来たのは律法や預言者を廃止するためだ、と思ってはならない。廃止するためではなく、完成するためである。(マタイ5ー17)」

と語られている。

旧約の時代があって、新約の時代につながっているのである。

 

次回は、その旧約聖書から新約聖書に続いていく、「イスラエル民族の歴史」の、おおまかな流れについて書かせて頂きたいと思う。