友人のインスタグラムを見ていたら、ぞうさんじょうろの写真が目に映りこんできた。目がくりくりとしていてかわいらしい、赤と緑の2種類があるじょうろ。その写真は私の幼少の記憶を呼び起こし、そこで曾祖母の断片にも再会することになった。

 

曾祖母は手厳しかった。全国の祖父母や曾祖母はきっと、孫やひ孫には仏のようであるに違いないのだが、うちは違っていた。とにかく怒鳴られた。何をしても怒鳴られた。ある日私と曾祖母(ひいばあちゃん)の二人で留守番をすることになってしまったのだが、怖すぎて、家出した。小学一年生にして初めての家出である。

 

当時でさえ、ひいばあちゃんはかなりの高齢だった。白髪の下にしわだらけの顔しか私は知らないが、それがまだ黒髪で、肌に潤いがあったころはきっと、キャンプファイヤーのように激しい気性だったに違いない。そんな時分日本は戦争をしていた。実家のある村にも偉い兵隊さんがやってきて、ありがたや竹やりを使った護身術を指南してくだすったらしい。そのときやはりひいばあちゃんが、竹やりで鉄砲に勝てるか!と怖いものなしに啖呵を切ったということである。桑原桑原。(私見では、この昔ばなしは嘘っぱち。)

 

さて、本題に入りたいと思う。そのひいばあちゃんは「ジンササマ」という言葉をよく使っていた。悪いことをするとジンササマに捕まるぞ。これはきっと警察官のことを言っているのだと当時の私は考えた。昔から私は絵を書くのが好きで、買ってもらった落書き帳をすぐに使い切っては母に小言を言われていたのだが、そこでやはりひいばあちゃんが出てきて、「そんなにすぐに買いに行ったら、落書き帳を棚に並べるお店の人が力尽きて死んでしまうじゃろう。そしたらおめえ、ジンササマに捕まるぞ!」駐車場脇の草っぱらにあるミントを煮詰めて、ひいばあちゃんに出したことがあったが、そのときも、「こんな汚いのを飲ませてひいばあが死んだらお前のせいだぞ、ジンササマに捕まるんだからな(結局飲んだ)。」一例目の謎理論でも、二例目のいじわるでも、「ジンササマ」は警察官だと思う。

 

しかし、この語を使っているのはひいばあちゃんだけだった。辞書を探しても見つからない。なのでどのような漢字があてられているかわからない。

 

もし漢字をあてるとすれば、「人査様」だろうか。人を調査してしょっぴくのがおまわりさんの仕事だろう。

 

 

おまわりさん、巡査、まっぽ…。警察官にもいろんな呼び方がある。しかしそのどれよりも、「ジンササマ」は警察官らしい印象を与えていると思う。少なくとも私にとっては。むしろその峻厳な響きは警察官よりも警察官らしいではないか。おまけにどこか呪術的な雰囲気さえも感じられる気がする。上の二つの事例で、ジンササマを警察に置き換えてみると、何か、しっくりこない。おまわりさんでも、どうだろう。

 

厳しい曾祖母が使っていたから重い響きを感じ得るのか、それとも音自体にそのような性質があるのか、わからない。ただ、どちらにせよ、私たちが普段「言霊」という言葉に託しているものに通じているのではないかと考えている。音の力とはいったい何であろうか。