学者の間では評価されなかった森田説 1

《「言葉で説明すると分からなくなる」といった森田の科学観》

 昭和四年、当時神経衰弱と呼ばれていた神経質タイプのノイローゼで森田博士のもとで入院治療を受けた井上常七氏は全治した後も森田の内弟子となって九年間師事した人である。

 氏は森田式精神療法の原法を経験した形外会(森田の患者会)の先輩として、ときどき私たちの会合にも出席し、エピソードを話して下さったのであるが、平成二年、神経質雑談会(鈴木知準の患者会)の会誌「今に生きる」に「神経質歎異抄」と題して記された回顧の中に森田の内弟子として師事した人でなければ知ることができない貴重な見聞があるので、摘録してみる。

森田は創案した療法を精神修養といつも呼んでいた。

それで古今の賢人の言葉を指導に利用した。禅、経文、聖書、論語などさまざまであった。

またそれら賢人の説として書かれていることを批判し、誤りを指摘することでわれわれを指導することもあった。 

森田語録第一の「事実唯真」は「じじつただまこと」または「じじつただしん」が森田の読みである。