立体の、隣りの点
つづきです。










宇宙の概念は、道教・老荘の哲学から起こったもので、「宇」は天と地及び四方の空間、「宙」は時間を意味しているとされ、本来、この天蓋は、古代中国の「陰陽五行思想」の法則に基づいて方位や季節などを明確にし、宇宙の秩序を表現しているものと思われるが、現在では一部の地方を除いて、専ら舞殿の装飾的役割に終始している。
神楽曲目「天蓋」は、舞殿の天井から吊された天蓋を奏楽と神楽歌に合わせて長い綱で自由自在に操つる曲芸的な儀式舞で、天蓋が飛遊する様子は、まさしく神が天蓋に乗り移っているのではないかと錯覚させる動きである。この天蓋は、参拝客が唯一参加することが出来る曲目で、参拝客も天蓋を引くことが出来る。
その昔は、天蓋の飛び方によって来期の作柄の吉凶などを判断したとも伝えられ、数ある神楽曲目の中でも極めて特別な存在である。
1 天蓋の配置
天蓋の配置については、舞殿の宇宙観の項でも記したところで、舞殿中央の天井には縦横12本(地域によって相違)ずつの竹を組み合わせ、黄、緑(青の代用?)、赤、白、紫(黒の代用?)の垂を無数に垂らした、一面が一間半(地域によって相違)の枠が取り付けられる。この枠は、「雲」と呼ばれる。
天井に取り付けられた雲には中央に六角の「大天蓋」が、東、南、西、北の四方(地域によっては、南東、南西、北西、北東を加えた八方)に四角の「小天蓋」が吊され、中央の大天蓋には波邇夜須毘古神(はにやすひこのかみ)(土の神)、また東、南、西、北の四方の小天蓋には久久能智神(くくのちのかみ)(木の神)、火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)(火の神)、
金山毘古神(かなやまひこのかみ)(金の神)、弥都波能売神(みつはのめのかみ)(水の神)の古事記に登場する五方の神が充てられる。
天井から吊された天蓋枠には中央、東、南、西、北や春、夏、秋、冬の文字、また舞殿の周囲には春、夏、秋、冬や松、竹、梅などの慶事物を切り抜いた「切り飾り」が貼られる。
2 五方・五季の神達
(1) 久久能智神

古事記によれば、伊邪那岐(いざなき)・伊邪那美命(いざなみのみこと)は、神婚による国生みの後に神々を生み、その十二番目に産まれたのが木の神「久久能智神」である。また日本書紀では、伊弉諾・伊弉冉尊は木の祖(おや)「句句迺馳」
を生んだとあり、木の生みの祖である「句句迺馳」を生んだと表現されるとことから、間接的に木を生んだことになる。本居宣長は、神名の「クク」は茎のことで、草木の幹の立ち伸びるさまを表し、「チ」は男性の美称であるとしている。
久久能智神は、東方に配置される天蓋に充てられ、季節は春、色は青色とされる。
(2) 火之迦具土神
「ヒノカグツチノカミ」は、古事記では「火之迦具土神」、日本書紀では「火神軻遇突智」と記される。
古事記によれば、伊邪那美命(いざなみのみこと)が最後に生んだのが「火之迦具土神」で、「火之夜芸速男神(ひのやぎはやをのかみ)」「火之炫毘古神(ひのかがひこのかみ)」という別名を持ち、日本書紀の一書では「火産霊(ほむすび)」の名が見える。いずれの場合も「火」という文字が用いられているところから火の神とされる。古事記では伊邪那美命は、この神を生んだときに陰部を火傷し、それが原因でなくなったとされる。カグツチという神名は、火が燃えるさまを表す「カグ」と神霊を意味する「チ」からなっているとされる。また別名である「ヤギハヤヲ」は、「ヤギ」=焼くと、「ハヤ」=速い、男神を表す「ヲ」からなり、短時間い速く物を焼いてしまう火の勢いの強さを表した神名であり、「カガヒコ」という神名は、火が輝く様子を神格化した男神を示しているとされる。これらの神名は、いずれも火の燃える様子から付けられたものとされる。
古事記によれば、伊邪那美命(いざなみのみこと)が最後に生んだのが「火之迦具土神」で、「火之夜芸速男神(ひのやぎはやをのかみ)」「火之炫毘古神(ひのかがひこのかみ)」という別名を持ち、日本書紀の一書では「火産霊(ほむすび)」の名が見える。いずれの場合も「火」という文字が用いられているところから火の神とされる。古事記では伊邪那美命は、この神を生んだときに陰部を火傷し、それが原因でなくなったとされる。カグツチという神名は、火が燃えるさまを表す「カグ」と神霊を意味する「チ」からなっているとされる。また別名である「ヤギハヤヲ」は、「ヤギ」=焼くと、「ハヤ」=速い、男神を表す「ヲ」からなり、短時間い速く物を焼いてしまう火の勢いの強さを表した神名であり、「カガヒコ」という神名は、火が輝く様子を神格化した男神を示しているとされる。これらの神名は、いずれも火の燃える様子から付けられたものとされる。
迦具土神は、南方に配置される天蓋に充てられ、季節は夏、色は赤色とされる。
(3) 金山毘古・金山毘売神
「カナヤマヒコノカミ」は、古事記では「金山毘古神」、日本書紀では「金山彦」と記される。古事記では女神「金山毘売神(かなやまひめのかみ)」が登場し、金山毘古神と夫婦神とされる。
古事記によれば、迦具土神を産んで陰部を火傷して苦しんでいた伊邪那美命が嘔吐したときにその嘔吐物に成ったのが「金山毘古神」「金山毘売神」である。金山は「鉱山」の意味で、嘔吐物が鉱石を火で溶かしたときの状態によく似ていることから、このような記事になったとされる。日本書記の一書にも金山毘売神は登場しないが、同様の記事が見られる。
いずれにしても、これら神は金属に関連した神であることに疑う余地はないと思われる。
金山毘古神は、西方に配置される天蓋に充てられ、季節は秋、色は白色とされる。
(4) 弥都波能売神

古事記によれば、伊邪那美命が迦具土神を産んだ後、陰部を火傷して病に伏した際、最後に小便から成った二柱のうちの一神が「弥都波能売神」である。日本書記の一書にも同様の記事が見られる。弥都波能売神の「ミツハ」は「水走(みづは)」で、水を湧出し走らせる意味とする説、あるいは「水生(みずは)う」「水這(みずは)う」など水蛇と関係があるとする説がある。農耕に関する水を司る神とされる。
弥都波能売神は、北方に配置される天蓋に充てられ、季節は冬、色は黒色とされる。
(5) 波邇夜須毘古・波邇夜須毘売神
「ハニヤスノカミ」は、古事記では男神を「波邇夜須毘古神」、女神を「波邇夜須毘売神」、日本書紀では「土神埴山姫」「埴山媛」「埴安神」と記される。
古事記によれば、伊邪那美命が迦具土神を産んだ後、陰部を火傷して病に伏した際、その苦しみの中、糞から成った二神が「波邇夜須毘古神」「波邇夜須毘売神」である。また日本書記の一書では、伊弉冉尊(いざなみのみこと)が火神軻きに、臥しながら「土の神」を生んだとある。この二神は、土の男女神とされ、「ハニヤス」とは、「埴粘(はにやす)」(祭具の土器を作る粘土)のことで、「ハニ」は神聖な威力を持った泥、「ヤス」は美称であるとされる。つまり、単に土の神であるだけではなく、粘土を練り整え、火で焼いて祭器を作る材料としての神聖な神々であるとされる。
波邇夜須神は、中央に配置される天蓋に充てられ、季節は四季の終わりに訪れる土用、色は黄色とされる。