https://www.facebook.com/kouta.fujiwara1/posts/pfbid02WMniaghcYXdQTCwjgARdc4LYRu4ycGLz6SEY6YFaoTTTzFXvLPj5BHbC5BzJm2xcl?locale=ja_JP
https://news.yahoo.co.jp/.../eaaf7951cf9dcba268e43c245bd5...
「歯痛の文化史 古代エジプトからハリウッドまで(ジェイムズ・ウィンブラント 著 / 忠平 美幸 訳)」によると、中世では旅回りの歯抜き屋が、広場で歯抜きショーを行い患者を集めていましたが、抜歯と同時にその患者の財布も盗まれていたようです。この度のニュースでそれを思い出したので振り返ります。
中世から19世紀初頭にかけて、抜歯はしばしば「見世物」でした。行商の歯抜き師は市場や祭りに出店し、助手たちが踊りや曲芸、歌で観客を集めました。助手は通常、道化師やアルルカン(ハーレクイン)の扮装をしており、抜歯の場面は見世物として重要な役割を果たしました。音楽の演奏は群衆を引き付けると同時に、患者の叫び声をかき消す役割も担っていました。
さらに別の手口として、広場で「無痛で歯を抜ける」と豪語するペテン師が、あらかじめ仕込んでおいた共犯者を「渋々出てきた患者」として演じさせ、偽の抜歯を見せて血のついた歯(事前に用意したもの)を観客に見せびらかすというものもありました。ドラムやトランペットが患者の叫び声をかき消し、次の客が怖じ気づかないようにしました。
オランダの画家ヤン・ステーン(Jan Steen)による作品、マウリッツハイス美術館(オランダ)に所蔵されている1651年作の「歯抜き師」では、患者が「医者」の共犯者に財布を盗まれる場面が描かれています。別バージョンの作品では、共犯の盗賊が患者の卵かごとズボンのポケットに同時に手を突っ込んでいます。
ステーンはこのテーマを繰り返し描いており、「いかがわしい医者」の場面では、患者に心配そうに寄り添う老婆(観客役の仕掛け人)が登場するのが定番モチーフでした。これは当時の社会でよく知られたスリの手口だったことを示しています。
大道歯抜き師・共犯の道化師・スリの三者が組んだ詐欺集団による犯罪で、観客が抜歯の痛みにくぎ付けになっている隙に財布が抜き取られるという構造です。絵画に繰り返し描かれていることからも、当時の人々にとって身近な出来事だったことがうかがえます。
こうした「人の注意が一点に集中する瞬間を狙う」という手口は、時代が変わっても本質的には同じです。財布やスマートフォンの管理をしっかりして、昔の人々と同じ落とし穴にはまらないようにしたいものです。
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-美容整形受診者における精神疾患の高有病率と向精神薬服薬の連鎖が自殺転帰に及ぼす影響-
見過ごされがちな問題の一つに、向精神薬の服薬が新たな症状を生み出し、それがさらなる診断名と処方の連鎖を招くという現象があります。向精神薬が投与されると、その薬物固有の副作用—たとえば不眠、倦怠感、性機能障害、体重増加、情動鈍麻など、数え切れないほどの新たな訴えが現れることがあります。
そしてこれらの副作用は、しばしば服薬に起因するものとは認識されず、別の疾患の発症として解釈され、新たな診断名が付与されます。さらに減量・中断の局面で生じる離脱症状もまた、もとの疾患の再燃あるいは新規疾患として鞍替えされ、別の薬物が上乗せされることがあります。
こうした過程が繰り返されることによって、患者は多剤併用の深みへと知らず知らずのうちに引き込まれていきます。そして皮肉なことに、最初に下された疾患名は処方の連鎖の中で埋没し、主訴の根本が何であったかさえ見えにくくなってしまいます。
このような診断の漂流とも呼ぶべき状況は、患者の全体像の把握を困難にし、長期的な転帰に深刻な影響を及ぼしうる点で、現代の薬物療法が抱える構造的課題の一端を示しています。
近年、美容整形手術を受ける人口は世界的に増加の一途をたどっており、受診者の心理社会的背景に関する学術的関心も高まっています。
こうした状況の中、ユーチューバーとして発信活動を行っていたゼパ氏が先日急逝されました。死因は公表されておりませんが、彼女が美容整形の経歴を持ち、アルコールを嗜む生活を送っていたこと、自身の名前の由来をベンゾジアゼピン(BZD)系であるロラゼパムに求めていたことは、複数のリスク因子が交差する状況にあったことを示唆します。
このたびは、美容整形受診者における何らかの精神疾患と名付けたられた方々の高い有病率、それに絡む向精神薬—とりわけBZD系—の服薬実態、そしてBZD使用と自殺リスクとの関連について整理します。
まず、美容整形受診者における精神疾患の有病率について確認しておく必要があります。精神疾患は美容整形を受ける者において一般人口よりも高い頻度で認められ、なかでも身体醜形障害(BDD)の有病率は4〜57%、うつ病は4.8〜25.8%、不安障害は10.8〜22%に及ぶとされています。
精神疾患の存在は、患者の不満足感や社会的孤立、精神健康状態の悪化、自傷リスクの上昇といった転帰不良に関連することが示されており、精神的問題を抱える患者を適切に見逃しなく把握することは、臨床上および倫理上の重要課題とされています。
実臨床においても、精神的評価を実施したある前向きコホート研究では、初回スクリーニング基準を満たした美容整形患者のうち32%に精神疾患の診断がなされ、18%にBDDが認められたとされています。
また、美容整形を繰り返し希求する患者の一部には、自己の容貌に関する過剰な執着を特徴とするBDDのみならず、物質使用障害が合併している例も少なくないとされています。
次に、向精神薬の服薬実態について言及します。フランスで実施された多施設前向き研究では、美容整形予定患者103名を調査したところ、対照群と比較してうつ病・不安障害の頻度が有意に高く、とりわけ注目すべきは、50%が既に何らかの向精神薬治療を受けており、そのうち27%が抗うつ薬を服薬していたという点です。
すなわち、美容整形を受ける者の少なくとも半数が何らかの精神科的背景を有しており、向精神薬—特にSSRIや抗不安薬—との接点がある可能性が示されています。とある美容外科医が「来院患者の半数程度は何らかの精神疾患を抱えている」と述べていることとも、この数値は一致しています。
なお、精神疾患の診断を受けたすべての者が向精神薬を服薬しているわけではありませんが、BZD系については美容整形の周術期不安に対して術前1〜3日程度の短期投与が推奨される場面もあり、BZD系が術前不安に対して投与されることがあります。
ゼパ氏の名前の由来がロラゼパム(先発品 ワイパックス)に由来するというエピソードは、単なる逸話にとどまりません。ロラゼパムはBZD系に分類される高力価の抗不安薬・催眠薬であり、中枢神経系のGABA_A受容体を介して作用します。BZD系と自殺リスクとの関連については、近年多くの研究が蓄積されています。
BZD系は自殺企図および自殺既遂のリスクを全体として上昇させると考えられており、その機序として衝動性・攻撃性の増大、反跳症状や離脱症状、過剰摂取による毒性が指摘されています。
さらに、21件の研究を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析では、BZD系の使用が自殺リスクと有意に関連することが示され、プールされた効果量は2.74(95%CI:2.06〜3.63)と報告されており、処方されたBZD系は自殺転帰(企図または既遂)のリスクを2倍以上高めることが示されています。
また、スウェーデンにおいて自殺により死亡した精神科患者154例と対照群を比較したケースコントロール研究では、症例群においてBZD系の処方頻度が有意に高く(42.2% vs. 27.9%、p=0.009、オッズ比1.89)、過去の自殺企図や身体疾患による入院歴で調整後もこの関連は維持されていました(オッズ比1.83)。
Chirica MG et al.(Psychiatry Research, 2026)の研究は、BZD使用開始前後における自殺行動の時間的ダイナミクスを検討し、患者のサブグループごとにリスクパターンが異なることを示したものです。
この知見は、BZD系が一律に危険というよりも、使用開始直後や減量・中断の局面における脆弱性が高まることを示唆しており、離脱症状に伴う自律神経症状(不眠、振戦、過覚醒)や反跳性不安が、衝動的・突発的な自殺行動の引き金となりうる可能性を裏付けます。
さらに、アルコールとBZD系の相互作用は、自殺リスクを相乗的に高める重大な要因です。オピオイドとBZD系の併用が自殺企図・意図的自傷のリスクを著明に高めるとされる知見と同様に、アルコールとBZDの併用はGABA系の過剰抑制をもたらし、認知機能・判断力の低下を引き起こすとともに、衝動制御を著しく障害するとされています。これは、特定の状況下において突発的・衝動的な行動化を促進する可能性があります。
美容整形の経歴を持ち、アルコールを好み、BZD系との関与が示唆される者においては、こうした複合的リスクが現実的な意味を持つと考えられます。
BDDを含む精神疾患を有する者では自殺念慮が約50%、自殺企図が約25%に及ぶとされています。美容整形受診者におけるスクリーニングの重要性は、こうした観点からも改めて強調されるべきであり、物質使用障害、過去の疾患歴、自殺企図歴、自殺の家族歴、支援の乏しさなどは自殺リスク因子として認識されています。
ゼパ氏の急逝を直接的に論じることを目的とするものではなく、また死因についての臆測を行う意図も有しません。しかしながら、彼女の生活背景—美容整形、アルコール嗜好、BZD系への心理的親近性—が複数の独立した自殺リスク因子に対応していたことは事実です。
仮にゼパ氏が、人生のどこかの時点で何らかの精神的な苦しさを抱えていたとしても、それが向精神薬やアルコールによって覆い隠されることなく、ありのままの症状と静かに向き合う時間があったならば、経過も結果も、今とは異なるものになっていたかもしれません。
副作用に苦しむことも、離脱症状に翻弄されることも、診断名が次々と書き換えられていく混乱も、そのいずれもなかったとすれば、向き合うべきものはもっとシンプルだったはずです。
自分の身体が発しているそのままのサイン、自分の心が抱えているそのままの痛みと、余計なものを介さずに対話できる日々は、たとえそれが容易でないとしても、薬物やアルコールで感覚を塗り替え続ける生活よりも、はるかに豊かな可能性を秘めていたのではないでしょうか。
苦しさを薬物やアルコールで遠ざけることは、一時の救いに見えても、やがてその救いそのものが新たな苦しさへと姿を変えます。しかし、それらを手放した先には、副作用にも離脱症状にも診断の漂流にも煩わされない、純粋な自分自身の状態と向き合えるシンプルな日常があります。その中にこそ、本当の意味での回復と将来への道筋があると信じています。
参考)
美容整形希望者の半数以上に精神疾患、術前評価の重要性を示す前向き研究
https://academia.carenet.com/.../0f3e75b3-2a80-4a46-b3ec...
ベンゾジアゼピン使用は自殺リスクに影響しているのか
https://www.carenet.com/news/general/carenet/62607

https://www.facebook.com/kouta.fujiwara1/posts/pfbid0YC3v5sKPSazicmUE2WreVmZ6SDWKsBwHsz5Wr8J2VsyFhmiXJSihizzu6bwqd4kRl?locale=ja_JP
-韓国の処方増加データが示す「現代社会の構造的苦痛」と、それでも人が薬に手を伸ばす理由-
1. 数字が示す現実
韓国の保健当局が公表した最新統計は、社会の医薬品依存がいかに深く進行しているかを浮き彫りにしています。
ベンゾジアゼピン系の処方量は2021年の約8億1000万錠から2024年には約8億6335万錠へと、4年連続で増加を続けました。最も処方量が多いのはアルプラゾラム(約3億4663万錠)で、ロラゼパム、ジアゼパム、エチゾラムが続きます。これらはいずれも不眠・不安障害への対処として日常的に処方されている向精神薬であり、依存性と耐性リスクを持つことが広く知られているにもかかわらず、処方数は減少に転じる気配を見せていません。
一方、抗うつ薬の使用量は直近5年間で51.0%増加しました。とりわけ注目すべきは青少年層の伸びで、5〜9歳で244.5%、10〜14歳で157.5%、15〜19歳で128.3%という急増ぶりは、精神的苦痛の「低年齢化」が単なる印象ではなく、統計に刻み込まれた現実であることを示しています。また、最も多く抗うつ薬を服用している集団は80歳以上の女性(1日1000人当たり約115人)であり、苦痛は世代を超えて社会全体に広がっています。
高齢層では胃腸薬(プロトンポンプ阻害薬)の使用も5年間で52.9%増加しており、65歳以上の10人に1人以上が毎日服用している実態も明らかになっています。複数の薬を同時に服用するポリファーマシーの広がりが、胃腸保護目的の処方をさらに押し上げるという連鎖が生じています。
供給側の構造として注目すべきは、保険給付医薬品の販売額の68.5%が薬局経由であるという事実です。抗うつ薬もベンゾジアゼピン系も、大病院ではなく地域のクリニックが処方の主体となっており、短時間診療の中で薬が手渡される構造が定着しています。
2. 犯罪への悪用
ベンゾジアゼピン系の問題は、今や服用者本人の健康リスクにとどまりません。いわゆる「カンブク・モーテル連続殺人事件」では、ベンゾジアゼピン系を混入させた飲料を渡し、意識を失わせたうえで死亡させた疑いが持たれています。国立科学捜査研究院の分析によれば、アルプラゾラムとフルニトラゼパムは2023年以降、薬物運転者から多く検出された成分でもあります。処方という合法的なルートで流通する薬物が、犯罪インフラとして機能し始めています。
3. なぜ人は、知っていても薬に手を伸ばし続けるのか
統計はあくまでも「結果」です。より根本的に問うべきは、なぜこれほどの量の向精神薬が必要とされ続けるのか、という構造的な問いです。この問いに対する答えは、「知らないから」と「知っていても手を伸ばす」という、一見矛盾する二つの側面が重なり合っています。
3-1. 「知らない」という側面——情報の非対称性
初めて処方を受ける患者の多くは、神経適応や離脱症状の深刻さを十分に知らされていません。説明を受けたとしても、それが具体的にどのような事態を意味するのか——減薬を試みると手が震え、睡眠が著しく乱れ、パニック症状が服薬前より悪化し、場合によっては数ヶ月から数年にわたる苦闘や、時に突然死となりうることを、処方以前にリアルに想像できる患者はほとんどいません。
医療者側もまた、短時間診療という構造的制約の中でそこまで伝えきれていないのが現実です。すなわち「知らない」という状態は、個人の無知に帰せられるべき問題ではなく、情報が適切に届かない制度の問題として捉え直す必要があります。
3-2. 「知っていても手を伸ばす」という側面——現在バイアスと認知の歪み
しかしながら、問題はリテラシーの欠如だけに還元できません。ある程度のリスクを知っていてもなお、人は薬に手を伸ばします。その背景には、いくつかの神経心理学的・認知的メカニズムが作動しています。
苦痛の非対称性と現在バイアス
今この瞬間に感じている苦痛は100%リアルな現実ですが、将来生じうる離脱症状はいまだ可能性にすぎません。人間の脳は、確実な現在の苦痛を不確かな将来のリスクよりも重く評価するよう設計されており、これを現在バイアスと呼びます。ベンゾジアゼ
ピン系が服用後30分以内に不安を鎮めるという即効性は、この現在バイアスをさらに強化します。
楽観バイアスと自己例外化
統計的なリスクを知識として持っていても、「依存するのは他の人であって、自分は短期間だけ使うから問題ない」という思考が自然と働きます。これは楽観バイアスと自己例外化と呼ばれる普遍的な認知の歪みであり、意志の強弱とは無関係に生じます。
比較対象の非対称性
「薬を飲まない苦痛」と「飲んだ先の苦痛」を天秤にかける際、前者はすでに経験中の現実として鮮明に存在していますが、後者はいまだ経験していない未知の事象です。経験したことのない苦痛を正確に想像することは著しく困難であり、意思決定を大きく歪める要因となります。
3-3. 依存は意志の問題ではなく、神経生物学的な変化である
ベンゾジアゼピン系はGABA-A受容体に作用し、脳の恐怖回避・報酬システムを書き換えます。継続的な服用により神経適応が生じると、薬がない状態そのものが病的な苦痛として感知されるようになります。この段階に至ると、「やめたいという意志」と「やめられない神経学的現実」の間に深刻な乖離が生じます。これは道徳的な失敗でも意志薄弱の証でもなく、神経生物学的な変化の帰結として理解されなければなりません。
抗うつ薬においても同様に神経適応が生じます。服薬中断時に生じる離脱症状は、しばしば元の症状の再燃と混同され、患者が「やはり薬が必要だ」という判断を強化する方向に作用します。これもまた、服薬継続の力学として機能しています。
3-4. 社会・医療構造が「薬を選ばせる」設計になっている
個人の認知や神経適応の問題に加え、社会・医療構造そのものが薬物依存を促進する方向に機能していることも見落とせません。韓国も日本も、地域クリニックでの短時間診療では、患者の訴えに対して薬を処方することが最も「効率的」な対応となりやすい構造が定着しています。処方という行為が「病気だから薬が必要」という文脈を自動的に生成し、服薬を正当化・継続化させる力学が働いています。
3-5.「楽になりたい」という動機の正体
「今を少しでも楽にしたい」という服薬動機は、単純な快楽追求として矮小化されるべきではありません。多くの場合それは、機能したい、眠りたい、人と話せるようになりたい、仕事を続けたい、という切実な生活上の必要から来ています。薬に手を伸ばす人を「知識が足りない」「意志が弱い」と評することは、その人が置かれている状況の重さを見落とすことになります。
4. 服薬後に待ち受ける将来像——段階的に進行する変化
処方された薬を飲み始めた人が、その後どのような経過をたどるのかについて、ここで具体的に整理しておく必要があります。服薬後の将来像は、大きく「短期」「中期」「長期」の三段階に分けて考えることができます。
4-1. 短期(服薬開始〜数週間)——「効いた」という体験の刷り込み
服薬直後の段階では、多くの患者が明確な症状の改善を体験します。ベンゾジアゼピン系であれば不安や緊張の急速な緩和、抗うつ薬であれば数週間後から気分の安定や意欲の回復が現れます。この段階における体験は非常に強く記憶に刻まれ、薬と「楽になる」という体験の間に条件付けが形成されます。
しかしこの時期、脳内ではすでに神経適応のプロセスが静かに始まっています。GABA-A受容体の感受性の低下、セロトニン系の再調整が水面下で進行しており、患者本人にはそれが見えません。「効いている」という実感の裏側で、脳はその薬物の存在を前提とした新しい均衡状態へと向かって変化し始めているのです。
4-2. 中期(数週間〜数ヶ月)——耐性形成と用量増加の圧力
服薬を継続するうちに、当初と同じ用量では同じ効果が得られなくなってくる耐性が形成されます。これは薬物の作用に対して脳が適応した結果であり、生理学的に必然的なプロセスです。患者はより高い効果を求めて用量の増加を求めるようになり、あるいは医師が増量に応じる形で、服薬量は徐々に増加していく傾向があります。
この段階では、薬を飲まない時間帯に反跳症状が現れ始めることがあります。反跳症状とは、薬の効果が切れた際に元の症状が一時的に増悪する現象であり、ベンゾジアゼピン系の場合、次の服薬時間が近づくにつれて不安や緊張が高まり、服薬によって再び緩和されるというサイクルが形成されます。このサイクルそのものが、服薬の動機をさらに強化する構造として機能します。
また抗うつ薬においては、感情の平板化と呼ばれる現象が報告されています。これは喜びや悲しみといった感情の振れ幅が全体的に小さくなる状態であり、苦痛は和らぐものの、同時に喜びや感動も感じにくくなるという質的な変化です。患者はこれを「薬が効いている」と解釈することもあれば、「自分が何かを失っている」という漠然とした違和感として体験することもあります。
4-3. 長期(数ヶ月〜数年以上)——固定化と生活の再編
長期にわたる服薬は、神経適応をさらに深化させ、薬物なしの状態を異常として感知する脳の状態を固定化していきます。この段階に至った患者が減薬・断薬を試みると、離脱症状と呼ばれる一連の症状が現れます。
ベンゾジアゼピン系の離脱症状は特に深刻で、不安・不眠・発汗・手の震え・筋肉の痙攣・頭痛・光過敏・音過敏などが複合的に生じます。重篤なケースでは、けいれん発作が起こることもあります。これらの症状は、元の疾患である不安障害や不眠症の症状と酷似しているため、患者も医師も「症状が再燃した」と誤認しやすく、再び服薬を再開するという判断が下されることが少なくありません。これがいわゆる偽再燃の問題であり、患者が抜け出せない構造的罠の一つとなっています。
さらに長期服薬者においては、認知機能への影響も報告されています。記憶力の低下、集中力の減退、処理速度の鈍化などが観察されており、これらは高齢者においてより顕著に現れる傾向があります。転倒リスクの増加も重大な問題であり、高齢者がベンゾジアゼピン系を長期服用した場合、骨折・入院・要介護状態への移行リスクが有意に上昇することが複数の疫学研究から示されています。
生活の次元では、長期服薬者は自分の生活リズム・行動・人間関係を薬の服薬スケジュールに合わせて再編成していくという変化が生じます。外出の際には必ず薬を携帯し、薬が手元にないという状況そのものが強い不安を引き起こすようになります。薬は「苦痛を和らげるもの」から「日常生活を成立させるための不可欠なインフラ」へと変質していくのです。
5. 青少年・高齢者という二つの脆弱層
特に深刻な問題として浮かび上がるのが、青少年と高齢者という二つの脆弱層における向精神薬使用の急増です。
5-1. 青少年——発達途上の脳への長期的影響
5〜19歳という発達期における向精神薬の使用は、成人の場合とは質的に異なる問題を孕んでいます。青少年の脳は神経可塑性が高く、外部からの化学的介入に対してより大きく、より持続的に応答する傾向があります。セロトニン系や報酬系の発達が完了していない段階での薬物介入が、長期的な神経発達に与える影響については、現時点でも十分な科学的コンセンサスが得られていません。
また青少年期は、自己のアイデンティティを形成し、感情調節の能力を発達させていく時期でもあります。この時期に薬物によって感情が管理された状態が継続された場合、自身の感情と向き合い、それを自力で調節する能力の発達が阻害される可能性が懸念されます。すなわち、薬が感情の外部委託先となることで、感情調節スキルの内在化が妨げられるという問題です。
さらに、子ども・青少年への処方は、本人ではなく親や学校関係者の判断によって開始されるケースが多く、本人の自律的な意思決定が十分に保障されない状況での服薬が常態化している点も倫理的に重大な問題です。
5-2. 高齢者——ポリファーマシーが生む複合的リスク
高齢者においては、複数の慢性疾患を抱えることによる多剤併用が深刻な問題となっています。日本老年医学会の定義では、6種類以上の薬剤を同時に服用している状態をポリファーマシーと呼び、薬物有害事象のリスクが急激に上昇することが知られています。
高齢者では肝臓・腎臓の薬物代謝能力が低下しており、薬物が体内に蓄積されやすくなっています。ベンゾジアゼピン系は特に代謝が遅延しやすく、日中の眠気・ふらつき・転倒という形で有害事象が現れます。転倒による骨折は高齢者の要介護化の主要因の一つであり、「不眠を治そうとした薬」が「骨折・入院・介護」という深刻な転帰をもたらすという逆説的な事態が生じています。
加えて、認知症リスクとの関連も近年の研究で指摘されています。ベンゾジアゼピン系の長期使用がアルツハイマー型認知症の発症リスクを高める可能性を示す研究が複数報告されており、因果関係については議論が続いているものの、高齢者への長期処方に対してはより慎重なアプローチが求められています。
6. 薬に手を出さないという選択——より良い将来への道
薬を飲まずに苦痛と向き合うことは、短期的には確かに苦しいことです。しかしその苦しみは、少なくとも「薬がなければ生きられない脳」へと自らを変質させていく苦しみではありません。
非薬物的なアプローチは、即効性こそ乏しいものの、脳の本来の回復力と適応力を育てる方向に働きます。これらのアプローチによって得られた改善は、薬の作用が消えれば消えてしまうものではなく、その人自身の神経回路・思考パターン・行動習慣として定着していきます。
薬物に依存せずに苦痛を乗り越えた人の将来像は、薬に頼り続けた人のそれと、時間の経過とともに大きく乖離していきます。前者は、苦痛を感じる力と苦痛を乗り越える力の両方を持ち続けた人として生きます。感情の振れ幅を自分の内側に保ちながら、喜びも悲しみも本来の強度で体験し続けることができます。
薬の服薬スケジュールに生活を縛られることなく、突発的な状況にも自分の力で対処できるという自己効力感は、精神的健康の根幹をなすものです。一方、長期服薬者はその自己効力感を少しずつ薬に譲り渡していき、「薬があれば大丈夫」という条件付きの安心しか持てない状態へと向かっていく傾向があります。
人は本来、苦痛に耐え、回復し、成長する能力を持っています。その能力は使われなければ萎縮し、使われ続ければ強化されます。向精神薬は、その能力が発揮される機会を奪うことで短期的な苦痛を和らげるという、いわば「借金による苦痛の先送り」に近い構造を持っています。借金は必ず返済の時を迎え、その時には元本に利子が加わっています。
苦しいとき、眠れないとき、生きることが重荷に感じられるとき——そのような瞬間に、薬という即席の答えに手を伸ばしたくなる気持ちは、誰にとっても自然なことです。しかしその一歩を踏み出す前に、「この苦痛は何を伝えようとしているのか」「自分の生活や環境の中で変えられることはないか」「信頼できる誰かに話せることはないか」という問いを、自分に向けることができれば、それがより良い将来への分岐点となりえます。
薬に頼らずに生きることは、苦痛を無視することでも、助けを求めることを諦めることでもありません。それは、自分自身の回復する力を信じ、その力を育て続けるという、長く、しかし確かな選択です。そしてその選択の先にある将来は、薬によって管理された偽りの安定ではなく、自分自身の手で築いた、より本物に近い安寧であるはずです。
参考)
ベンゾジアゼピン処方4年増加 犯罪悪用も拡大(韓国語原著)
https://biz.chosun.com/.../04/07/LHGFXAJI3BBG5CLRJHB42YYAN4/
韓国で抗うつ薬と胃腸薬使用急増 薬局販売が主導(韓国語原著)
https://biz.chosun.com/.../04/12/CXP6LSJ4KJCYHLVIVPCZPPC26Y/
https://www.facebook.com/kouta.fujiwara1/posts/pfbid02aA4mhU134rKqCiU94ptTsyeNwEALgiN384mHxs6vM691VZ7caAZogknBA8N2ocbGl?locale=ja_JP
-「何かしなければ」という焦りが、回復を妨げる-
人は身体のどこかに痛みや不調を感じると、「このままでいてはいけない」という焦りに駆られます。医療機関へ走るか、あるいは今まで一度もしたことのなかったストレッチや筋トレ、各種の運動を突然始めるか、いずれにせよ、「何かをしなければ」という衝動は、ほとんどの人にとってごく自然な心理反応です。
ここに見落とされがちな重要な前提があります。人間の身体は、機械とは根本的に異なります。機械は壊れれば止まり、外部からの修理を待つしかありませんが、人体は何もしなくても、常に自らを修復し続けています。炎症反応、細胞の再生、神経系の再調整、これらはすべて、意識的な介入なしに、身体の内側で絶え間なく進行しているプロセスです。
問題は、その自然な回復プロセスに対して、善意の介入によって干渉してしまうことにあります。急性期における過度なストレッチ、不用意な筋トレ、そして安易な薬物投与——これらが回復を助けるどころか、むしろ阻害している恐れがあるという視点は、現代医療においてまだ十分に共有されているとは言えません。
向精神薬が処方されるまでの経路
身体症状が長期化・難治化した患者に対して、向精神薬が処方されるに至る経路は、決して単純ではありません。画像所見と身体症状が一致しない場合、術後も症状が続く場合、患者が「眠れない」と訴える場合、感情的に追い詰められている様子が見受けられる場合、これらすべての状況において、向精神薬が処方される可能性があります。
各種検査で異常が見つからなければ、「加齢のせい」「気のせい」「心因性」というレッテルが貼られ、不遇な扱いが待ち受けているという現実は、今も昔も変わりません。多くの症状は初動さえ間違えなければ比較的早期に収束するはずなのです。オピオイド系薬物や向精神薬の処方は、症状の本態が見えていないことの証左であるとも言えます。
「動きたがる」という本能と、回復の阻害
患者が行動制限を最も嫌う生き物であることは、広く知られた事実です。痛みや不調を抱えると、人は「動かなければ悪化する」「何かしなければ治らない」心理的圧力を自らに課し、むしろ積極的に身体を動かそうとします。しかしこの「動きたがる」本能的な衝動が、回復を阻害している可能性があります。
身体が持つ、本来の回復力を信じること
「何もしない」という選択肢が持つ力を、人はあまりにも過小評価しています。その営みを邪魔しないこと、それ自体が、ときに最善の治療となりえます。「何かしなければ」という焦りが新たな介入を呼び、その介入が回復プロセスを乱し、症状が複雑化・長期化・難治化していく連鎖を断ち切る最初の一歩は、身体が本来持っている回復力への信頼かもしれません。
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