「コーヒーにしますか? ティーにしますか?」
「ウィスキーを下さい。」
彼は、機内のアルコールが無料なのを知って、
アルコールばかりを何杯もおかわりをした。
身体の大きな彼は、バケツのような胃袋と肝臓をもっている。
少しも酔わず、無料というだけで飲んでいるかのように見えた。
……・……・……
「政治家は職業じゃない。」
テレビから聞こえた声は、今まで求めて来た言葉だった。
職業…。
全く身体に馴染まないその言葉は、苦痛だった。
自分が何者なのかを求められる苦痛…。
(ああ、俺と同じ言葉を使う人間がいる。)
それが、嬉しかった。
そして、自信になった。
世界中でたった一人だけでいい。
自分以外の他人が…、同じ言葉を使う人間がいれば…。
それは、自己の存在を確認するものだし、
生まれてきた存在意義そのものだった。
神や仏を口にする人間に対しても、
同じような思いを持っていた。
嘘というより、存在そのものに矛盾を感じていた。
矛盾の中で生きているのが人間だよ。
寛容な言葉か、優しさなのか…俺には理解できなかった。
自分が何者なのかに苦しんでいる人間には、
寛容は誤魔化しに思え、苦しみを解決する答えにはならなかった。
「空が美しいのは、あなたを生んだ空だからよ。」
(「いつもお前は、はぐらかして来たよな。俺は我慢して来たんだよ。」)
(「やりたかったら、やれよ!」)
空は美しい。
それは、本当だ。
もし、空が醜かったら生きていけないだろ?
(窓さえ無いコンクリートの部屋に、
猿ぐつわをされ手足を拘束されていたら…。
いや、独房から見える小さな空は美しかった。
小鳥の鳴く声や窓にとまる小鳥の姿は、
生きていることの実感と、
生きていることの素晴らしさを教えてくれた。
…そう君の知人が言ってたじゃないか。)
空の青さは、私たちを生んだ青さなのだ。
醜いわけがない。
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言葉を生むのは むずかしい。
それは 朝露のように 空気の中の水分を
一夜かけて 凝縮するようなものだ。
だから 私は 言葉が すきだ。
朝露に濡れた 蓮の葉から
抵抗無く 滑り落ちる ことばたち。
真っ青な空に 光り輝く ことばたち。
その水が
その光の一筋が
生命を支え 生命を育んでいく
繰り返す 時の息吹 ことばの一滴が
あたらしい生命を 生んでいく。
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