お高くとまっているとか
上品ぶっているとか
そう思われていることは知っています。
「あなたは全部持っているじゃない」
そう言われたことがあります。
彼女が家庭や仕事を持っていないのは
私のせいではないのに。
たくさん持っていれば
持っているものの
重さに耐えられないときもあるのに。
身分の不安定な仕事に就いている彼女は
仕事の愚痴や結婚しないことの不安を
昼休みのファミレスで
よく私に話していたけれど
彼女はよく映画を見に行ったり
新幹線に乗ってライブや美術館に行ったり
実家住まいで
ご両親が買ってくださった車に乗っていた。
その頃のわたしは
小さな子どもたちと休職中の夫を抱えて
自分の体調の悪さに耐えながら
なにもかも一人でやっていた。
カフェや雑貨屋さんなんて
もう何年も入ったことがなかった。
職場の送別会も大半を欠席していた。
残業するときは
残業代を上回るシッター代を払っていた。
あの頃に比べると
確かに自分の時間がとれるようになって
母ではない時間を過ごすことも
多くなったけれど
自分がしたことを
正当化しているわけではなくて
ただ、そうなってしまったことを
書きとめたいとわたしは思う
わたしは写真や動画は好きではなくて
子どもの運動会でも
ほとんど写真は撮らなくて
動画に夢中になるより
自分の眼でしっかり見てやりたいと思う
手紙もメールもときおり処分をしていて
いろんな記憶は忘れるのならば
忘れてしまってかまわないと思う
でも、忘れてもいいことをほんの少しだけ
もう少しだけ留めておきたい
わたしの濁りのなかのきらきらした部分や
誰が見ても平凡なわたしの
過去の一瞬のゆらめきや
ひとが見せてくれた
いちばん澄んだきれいな部分を
もう少しだけ
忘れることを待っていてほしいと願う
それが偽善だとか
上品ぶっているって言われたら
やっぱりそうなのかもしれないけれど
そうかもしれないわね、って小さく笑って
そのまま知らんふりをするだけ
わたしは強くなれた