あの春から夏にかけて

私達はSNSに熱狂していました。

SNSのDM以外に

メールアドレスや住所の交換が

あちこちでひっそりと始まりました。

 

私はリアルの交流からは

できるだけ距離を置くようにしていましたが

それでも何人かと連絡先の交換をしました。

 

あのときの私には

リスクを冒してまで

住所や自宅の電話番号を教えるということが

相手に対しての誠実さだと思ったからです。

 

こんな大切なことを教えるまでに

あなたのことを信じていますよ、と

彼らに伝えたかった。

 

もう二度と、あのようなことはしません。

 

 

やがてSNSの熱狂の圧力が

限界まで高まった初夏、

仲間のひとりがオフ会を提案しました。

次々に仲間達は参加を公言しました。

 

場所は主要メンバーが集まりやすい名古屋に

決まりました。

私は迷いました。

行けない距離ではない。

でも、ネットで知り合った人たち、

顔もわからない人達と会うのは怖い。

男性も女性もいるけれど

何があるのかわからない。

 

迷いながら、それでも参加を決めたのは

深夜に語りあった仲間たちに、そして

リュウさんに会いたいという一心でした。

 

さらに言うならば

ほかの女性がリュウさんに会ったことを

SNSの記事で知りたくないという思いでした。

 

はじめてのオフ会は

楽しかったように思います。

ネットの向こうの人たちは

みな、本当に存在するひとたちでした。

 

 

夫には昔の友達に会うと言って家を出ました。

オフ会の最中に夫から

「楽しんでおいで」

というメールが届きました。

 

私はひどく不愉快になりました。

私は自分の嘘がばれること、

オフ会に参加したという事実が露見することを

なにより恐れていました。

 

 

リュウさんはオフ会に遅れて現れました。

初めて会う、本物のリュウさん。

写真より少しがっしりとした男性でした。

私は彼に話しかけることはできませんでした。

私はずっと彼を目で追っていました。

 

オフ会は成功裡に終わったのだと思います。

仲間達のSNSは数日間

オフ会の話題でいっぱいでした。

遠方のためオフ会に参加できなかった人達は

残念そうでした。

 

何人かの男性が全員公開の記事で

オフ会の画像を出したとき

私は不快感を表明しました。

オフ会に参加したのは私の意思だけれども

私を含む画像を出すことに

同意はしていないと。

 

リュウさんも画像を公開した1人でした。

普段はおとなしい私が

リュウさんに反発するようなことを

言ったことで彼も驚いたと思います。

画像についてのメッセージを交わした後

彼は言いました。

 

「サリィとマキと一緒に、

うちに遊びに来ないか。」

 

私はもうすぐ36歳になろうとしていました。

 

 

 

 

 

 


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