SNSで私が恋に落ちた相手は
7歳上のリュウさんでした。
SNSで垣間見た彼の写真は
黒縁眼鏡をかけていて髭を生やし
癖のある長めの髪で
ラフな服装をしていました。
私の周りにはいないタイプの男性でした。
私は彼の画像をひっそりと保存しました。
音楽や日常のことを軽快に話す彼は
離婚経験者でした。
彼の奥様だった方は不倫を繰り返し
彼はそれが原因で心を病みました。
彼は婿養子として
奥様のご実家の事業を大きくしましたが
奥様との離婚が原因で
その仕事も追われ、子どもとも会えなくなり
ひとりになったひとでした。
人には言いたくない時期も
随分と過ごしていたようです。
私と出会った当時の彼は
心療内科通いを続けながら
彼の実家の家業を手伝っていました。
経済的に余裕がないことを
彼はSNSで自虐的に記事にしていました。
あるとき、彼のSNSが炎上しました。
彼のSNS仲間を揶揄する書き込みが
続きました。
彼はその書き込みに対し、こう反応しました。
就活に悩む学生も
職場の対人関係に悩むOLも
夫との齟齬に悩む人妻も
生きづらさに苦しむ皆も
俺の大事な仲間です。
炎上はそのうちおさまりました。
私はふと思いました。
あれは私のことだ。
息の詰まるようなこの家庭を
私はなんと名付ければ良いのかも
わからずにいたけれど
それは「夫との齟齬に悩む」という
ありきたりの言葉で
言い表すことができるのだ。
外側から見るとそうなのでしょう。
なんだか私はおかしくなりました。
そうか、私は
夫との不仲に悩む人妻だったのですね。
音楽やテレビの話をしていたはずの
SNSの仲間たちは
心に苦しさを抱えているひとばかりでした。
明らかに疾患があるのに
頑なに通院を拒んでいる人もいました。
鬱病をタグにしたことなどないのに
類は友を呼ぶ、とはこのことかと思いました。
気がつくとSNSは
グループセラピーのようになっていました。
リュウさんはいつでも話題の中心でした。
彼に心惹かれる女性は複数いました。
彼がSNSに記事をアップすると
先を争って女性たちがコメントを寄せました。
みな、自分の記事に
リュウさんがコメントを寄せるタイミングを
息を潜めて待ち望んでいました。
私はSNS仲間には
「おとなしいタイプで
リュウさんにのぼせあがっている人妻」
という括りで認識されていました。
私が彼に思いを寄せていることは
おそらく誰が見てもわかったことでしょう。
もちろんリュウさん本人にも。
リュウさんは慣れていたのでしょう。
私は彼の「お気に入り」の1人でしたが
私の恋愛感情については
軽くいなされていました。
SNS仲間でサリィという若い男性がいました。
彼はSNSに熱中している期間
仕事に悩み、退職して
やがて再就職をしました。
数ヶ月後、私は一度だけサリィと寝ました。