「ぴちこちゃんのけっこん」という

絵本があります。

幼い頃に読んだ絵本です。

わたしの姉はこの絵本が好きでした。
福音館書店の「こどものとも」を

家で定期購読していたのでしょう、
薄い、中綴じの本で読んだ記憶があります。

 

 

わたしのともだちに

スズコさんというひとがいます。
まだ小さいお子さんがいます。

こどもはもうひとり欲しいそうです。

 

スズコさんは、独身の頃から自分のことを

あまり話すひとではありませんでした。
お付きあいしているひとがいるということも

わたしは知りませんでした。

 

数年前スズコさんに「今度、結婚するの。」

と打ち明けられました。

 

「好きな人と一緒に暮らすのがいちばんだね」

わたしは答えました。

「そんなに好きじゃないかもしれないけど」

静かに笑ってスズコさんは答えました。

 

 

スズコさんはお見合いで

今のご主人と知りあいました。

 

わたしの友達の何人かは

お見合いで結婚しました。

みんな幸せそうに暮らしています。

 

お見合いで結婚したリエちゃんは

わたしにこう言いました。


「今の夫が好きで好きで

結婚した訳ではないんだけど

実家を出て新しい家庭を

自分で作るときだと思ったから

一緒に家庭を作れるひとだと思ったから

結婚したの。」

 

すごく好きなひととしか結婚しちゃいけない

と思っていたときもありました。

若いときの話です。

 

契約のように、就職のように

する結婚もあるのだと思うようになりました。

 

「好き」の気持ちはあったほうがいいけれども
一緒にずっと暮らしていって

もしこどもができたら一緒に育てていって
ふたりで家庭を作る、という覚悟があれば

結婚してもいいのかな、と思います。

 

結婚すれば

それまでの自分の生活に

リセットボタンが押される、

なんてことはなくて。
持ち物も、趣味も、友達も、実家も、

そのまま新しい生活に

ずるずると入り込んでいきます。

 

 

スズコさんは

心のなかに誰かがいるのかもしれない、と

わたしは思ったことがあります。

 

ときどきスズコさんは

ご主人ののろけ話をわたしにします。
スズコさんはご主人に聞くそうです。

 

「どうしてわたしと結婚したの?

どこが気にいったの?」


ご主人は答えるそうです。


「ひとのどこを好きになったとか

そういう大事なことは

言葉にできないものなんだよ。」

 

わたしはスズコさんに言いました。
「スズコさんはご主人に

あなたのここが好き、って言ったの?
自分から言わなきゃ

向こうも言ってくれないと思うよ。」

 

スズコさんは、ふふふ、と笑って

「好きなのかなあ」

とひっそりとつぶやいて
「そろそろ二人目がほしいなあ」

と言いました。

 

 

「ぴちこちゃんのけっこん」は

ねずみのぴちこちゃんが

お婿さんを探す話です。

 

ぞうやさる、へび、いろんな男性が

ぴちこちゃんにプロポーズします。
ぴちこちゃんは最後にチーズを持ってきた

ねずみの男性と結婚します。

 

わたしはこの話が

あまり好きではありませんでした。

 

 

スズコさんの心のなかには

誰かがいるのかもしれない、と

わたしは思ったことがあります。