仕事の参考になれば、と
あるSNSを始めましたが
実際のコンテンツをどうするか
私は悩んでいました。
プライベートのアカウントだから
好きなことでも書いてみよう。
そう思って私は
好きな音楽や映画、読んだ本の感想などを
書いてみました。
最初にコメントがついたのは音楽です。
おそるおそるコメントに返答を書きました。
SNSが初めてという訳ではありませんでしたが
自分が発信したものに
リアルの友人ではない
知らない誰かから反応があるというのが
とても新鮮でした。
私はコメントを書く、コメントを返す
ということにやがて夢中になっていきました。
ある日、私が書いたシャーデーの記事に
ある男性からコメントがありました。
コメントを返して
その後も何回かコメントの往復がありました。
彼に興味をもって彼のSNSへ飛びました。
彼とのコメントのやり取りは楽しかった。
機転が効いて、ユーモアがあって。
辛辣な言葉も嫌味がありませんでした。
彼が離婚経験者だとは
プロフィール欄かなにかで知りました。
「あなたは私の夫の
5年後の姿かもしれません」と
書き込んだのを覚えています。
彼のSNS記事は日常雑記の類でしたが
いつのまにか彼のSNSは
彼がアップした記事よりも
コメント欄に私を含む彼の仲間達が
だらだらと
雑談を続ける場所になっていました。
他愛もない記事、他愛もない雑談が続くなかで
やがて悩みを打ち明ける人が出てきました。
真剣に悩みと向き合った記事を
アップする人が出てきました。
深夜のパソコンの向こうで
面白くないジョークを飛ばす人たちは
本当は苦しさを抱えた人たちでした。
中学生の部活のような日々でした。
熱狂的な、
いつか終わることがわかっている日々。
パソコンの向こう側の
会ったこともない人たちの悩みに
真剣に向きあい、気遣って声をかける。
「私たちは会ったことはないけれど
心が繋がっているんだよ」
そんなことを真剣に言う仲間もいました。
女子中学生がする指切りのような真剣さで。
私はこのSNSにのめり込みました。
会ったこともない仲間たちとの会話のために
睡眠時間を削りました。
職場の休憩時間はすべてスマホに使いました。
私はこのSNSの中心人物である
リュウさんに恋をしていました。
私は35歳でした。
