夕食の支度をしているときです。

 

わたしの娘が泣き出しました。

お兄ちゃんと、けんかをしたようです。

 

しばらく、ほうっておきました。

いつまでたっても、泣きやみません。

 

カウンターの向こう側で、娘が泣いています。

わたしはカウンターのこちら側で

お味噌汁の具を刻んでいました。

 

娘がやってきます。

わたしの腰にしがみついて、泣きます。

 

わたしはそっと腰を下ろすと

娘をひざのうえに乗せます。

 

「ぜんぶ、きらいになっちゃったの。」

娘が言います。

やわらかなくせっ毛が

ほつれて涙で頬にとめられています。

 

「お兄ちゃんも、保育園も、お母さんも、

ぜんぶ、きらいになっちゃったの?」

わたしが聞きます。

 

「お兄ちゃんも、保育園も、お母さんも、

ぜんぶ、きらいになっちゃったの。」

泣きながら、娘が言います。

 

わたしは、娘の髪を撫でながら

「雨の日にはね、

そんな気持ちになることがあるのよ」

と言います。


娘は、わたしにとてもよく似ている。

 

やわらかなくせのある髪。

いつも本を夢中で読んでいて

「おとなになったらマニキュアをしたい」

と言っていて。

 

このさき娘は

何もかもいやになることが

どれだけあるのでしょうか。

そのとき

娘を抱きしめるあたたかな腕は

娘のそばにあるのでしょうか。

 

窓の外の雨はまだ、やみそうにありません。