私は自分のことを
平凡な兼業主婦だと思っていました。
保育園と小学校に通う3人の子ども。
その土地では「手堅い」とされる企業に
研究職として勤める夫。
ローンを組んで買った家。
結婚前から続けているフルタイムの仕事。
直属の部下もつきました。
仲の良い同僚。
プライベートでも勉強は続けていました。
リビングの柱には子どもの身長を刻み
庭にはバラとラベンダーを植えて
裏庭には実家の父が
ミカンの木を植えてくれました。
クリスマスにはちいさな光るツリーを
玄関前に置きました。
リビングに活けたフリージア。
カラーボックスに詰まったレゴブロック。
壁に貼られた子どもの絵。
たくさんの洗濯物。
すぐ空になる牛乳パック。
私はそのとき、35歳でした。
はたから見れば
幸せを絵に描いたような家庭でした。
夫のことは愛していると思っていました。
これが愛でないのなら
私は愛というものを知らずに
生きていることになってしまうから。
燃えあがるような気持ちではなく
家族として
このままずっと一緒に暮らすのだと
そう思っていました。
恋愛は若い男女がするものだと
思っていました。
自分には市場価値がないと思っていました。
もう自分には関係のないものだと
もうそんな季節は過ぎたのだと
信じていました。
彼に会うまでは。



