表紙があまりにもダンディ過ぎる。ほとんどの人がこの人物を知らないと思う。私も知らなかった。
この人物について簡単に説明させて欲しい。最年少でドイツ空軍戦闘機隊総監を務め、戦争の後半はドイツ全土の戦闘機部隊の指揮を執った。岩本徹三や坂井三郎、ドイツ空軍のスーパーエースであるエーリッヒ・ハルトマンのようにどちらかといえば現場で撃墜数を重ねたというよりもヒトラーやゲーリングといった元帥級の人たちと怒涛の交渉をしドイツ空軍の戦闘機隊をまとめた官僚タイプの人物である。
まず初めに投資に活用できそうな部分を抜擢して、そのあと面白いと私が思ったところを取り上げていこうと思う。
空軍を動員する際に最重要とされる基本指導原理の一つは重点設定である。すなわち、決定的地点に戦力を大量投入することだ。
p262より引用
戦力が数の2乗に比例して影響するため、集中投入による数の優位は絶大な効果を発揮する。この文章はつまりドイツ空軍が戦力の分散を行ってしまったときの発言だ。
これを応用したいところだが投資において銘柄の集中投資はあまり勧められない。ここでこの考えを大きく捉えると投資する際に例えばインデックスファンドを買うとしてもあれこれ買わないほうがいいということに繋がる。オールカントリーやS&P500やTOPIX、3つの投信を積み立てるよりもオールカントリーに絞って投資したほうがリターンが上がる。例えば商社を7つ分散して買うよりも3つに集中して買うほうがリターンが上がる。ただしその代わり買う銘柄や投信は事前にしっかりと研究しておかないといけない。結局のところ分散投資はリターンを向上させるものではなくリスクを分散させるものだからだ。次にいこう。
まるで防御が恥であるかのようにだ!今時戦争で、英国人は防御においてこそ大きな成果を収めたのではなかったのか。
p402より引用
これはヒトラーがソ連、イギリス、アメリカとの戦いにおいて攻撃思想一辺倒で爆撃機を重視し戦闘機を重視しなかったことについて発言している。防御思想のないヒトラーにガラントのみならずゲーリングまでも悩んでいたが総統の意向は変えることができなかった。ちなみにドイツの主力戦闘機であったメッサーシュミット Bf 109の航続距離が短いがためにイギリスの奥深くまで侵攻できなかったことをガラントは何度も嘆いていた。逆に考えればイギリスはそれに助けられたというわけだ。
このことは投資においても明瞭。ヒトラーのポートフォリオは株式100%だったのだろう。やはり現金、債権、ゴールドなどの防御性商品もポートフォリオに入れておく必要がある。次にいこう。
一 攻撃力の一点集中
二 昼夜間攻撃の融合
三 新たな手段手法の電撃的投入:レーダー妨害、爆撃機の河
p456より引用
これは連合軍がドイツに対して採用した戦術である。逆に言えばドイツはこれらができなかった。攻撃力の一点集中は説明したので割愛するが、2と3を投資に応用すると、とにかく新しいことを試していくことに繋がる。投資で新しいアイデアが浮かんだら小さくどんどん実験して仮説検証を取っていこう。中にはうまくいかないこともあるだろうがそこから学びを得て次に進んでいけばいい。
以上が本書から投資に生かせると思った点。私はガラントから航空戦における戦術を投資に生かせればと思って本を購入したのだが思いの外、組織の上の人であり思った内容と異なった(ガラント自身は現場で戦うことを熱望していたのだが)。とはいえそれはそれで面白い点があったので以下に列挙したい。
ガラントはヒトラーに対してドイツのダメなところを列挙し、イギリスを褒め称えた。どうせ激昂してくるだろうと思っていたのだが意外にもヒトラーはイギリスの国と軍隊を称賛し戦争をするのは苦渋の決断だと発言しガラントは驚いてしまった。ヒトラーはイギリスと戦争がしたくてしたわけではなかったらしい。
そんなヒトラーなのだがどうしても攻撃思想が強く戦闘機も爆撃機に変えて運用しようという考えに凝り固まっていた。ガラントは戦闘機による首都の防御を訴えていたが戦争の終盤にならなければその考えを受け入れられることはできなかったようだ。ドイツが生み出した世界最初のジェット戦闘機であるMe262も戦闘機ではなく爆撃機にされてしまった。
この点を考慮するとヒトラーの天才的な頭脳を持ってしても様々なことに関して正確に判断を下すことはできないということ。すなわち我々も投資においても大いにバイアスが掛かっており正常な判断を常に下せるなどと考えること事態が過ちであると頭に叩き込んでおかなければならない。この点においては投信の積み立てやポートフォリオにおいてETFを主体にするなどの対策が考えられる。人というものは常にバイアスが掛かっているものであり年を取れば考えも変わるし、今までの経験や思考などで大きく偏ってしまう。人に依存しないというシステム作りが大変重要だと感じる。または暴落時に買うと仮定した場合、自分の感情に流されないように前々からルールを決めて、実行するときはそれに淡々と従うということも非常に大切だ。
日本と同様にドイツも最終的にはソ連やアメリカの物量の前には歯が立たなかった。そのときの違いが興味深い。日本は神風特別攻撃隊を、そしてドイツはMe262ジェット戦闘機を生み出した。日本は人員の犠牲と精神力で対抗してドイツは科学技術で連合国に対抗した。ここに東洋の日本と西洋のドイツの思想の違をいを感じる。
最後にガラントのお茶目(?)な出来事を記す。
戦争の終盤、ドイツの飛行場が爆撃されたときのこと。爆撃が始まりガラントは避難用のタコツボに急遽逃げ込んだ。逃げ込んだタコツボの上は金属で覆われておりそれが2,3個の爆弾の破片を弾いて守ってくれた。その金属に安心感を抱き背中を押し付けて爆撃が終わるまで横たわっていた。爆撃が終わりタコツボを見てみると自分を守っていたのは不発の50kg爆弾だったという笑えない話。ガラントは強靭な運の持ち主なのかもしれない。
読後の感想としてドイツや日本のような資源と領土が乏しい国は一体どうしたらいいのだろうかと考えてしまった。兎にも角にも結局は戦争なのしないことが一番であることは間違いない。もはや中国と戦争になれば日本一国では勝てない。専守防衛力を向上させつつも周りの国とは戦争しない。孫子の兵法の戦わずにして勝つ、これが日本にとって一番重要だと思った一冊であった。
