宣言一つに | 紫の煙、琥珀の水、蒼い響き

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2021/01/31付 朝日新聞朝刊13版S 25面

緊急事態とは?「宣言」でうやむやに
「落としどころ探し」の弊害

日本語学者・金田一秀穂さんに聞く

 緊急事態宣言を発出する----。なんとも物々しい言い方が、政府やメディアで頻繁に使われる。非常時のこうした言葉遣いの背後に何があるのか。日本語学者で杏林大学教授の金田一秀穂さんに聞いた。
 「本来『緊急事態だ』と言えば良いはずなのに、『緊急事態宣言(原文は宣言に強調点)を~する』、とワンクッションある言い方に気をつけて」と金田一さん。選手宣誓の「宣誓」のように「宣言」は、非日常の言葉で、「なにか、とても偉く、重々しいもののように聞こえてしまう」。そこに「発出する」という耳慣れないお役所言葉が拍車をかける。
 だが、重要性を印象づけるにとどまらない効果もあるという。…中略…「緊急事態になった」と言うと、その真偽を議論する余地が生まれる。なぜ緊急事態になったのか、どう緊急事態なのか。だが、「宣言を出した」と言われると、宣言したこと自体が一つの行為となり、その宣言の内容の真偽は問題でなくなる。「日本では、とくに政府に言われてしまうと、それで終わり。発令のタイミングが早いか、遅いかという議論にしかならない。緊急事態とは何なのかという問い返しをせずに、そのまま受け入れてしまう」
 その背景には、日本人に特徴的な「落としどころを探す」という発想があるという。…中略…誰もが賛成するのではなく、「誰からも文句を言われない」ことを目指す解決法だ。
 日本人は世間を重んじ、「きちんとする」「しっかりやる」といった言葉を多用するという。「…中略…『まわりから見て文句を言われないように』ということであって、『褒めてもらえるように』ではない。日本人がとても大切にしている道徳律だ」
…後略…
(興野優平)
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論旨にどうこう言うのではないが、世に言う日本人論の大半には眉に唾をつけるクチなので、安易に日本人論に結び付けたがる説明には、多少の疑問を抱く。

引用を省略した部分で金田一は(正当にも)言語行為論に言及しているが、「宣言」のレトリックで為政者たちが意図していること、それへのメディアの対応こそが焦点なのであって、別段、日本人・日本語の固有の問題として論じるには及ぶまい。

念のため補足しておくと、言語行為論とは極めて乱暴にいうと「言葉を口に出して言うことが、その行為を行うことである」という考え方で、引用中の「宣言したこと自体が一つの行為となり、その宣言の内容の真偽は問題でなくなる」に照応している。

また、最大利益よりも損失回避を選択することは国を問わず一般的に見られる傾向であって、日本人に顕著だという実験結果があるのか、寡聞にして私は知らない。

記事からメディアとしての対応が伝わらないのが残念だが、これはインタビュー記事の制約上、已む無しか。