「パリ駅での別れ」

 

英語は便利です。見知らぬ国の人と、話せます。

母国語はロシア語なのに英語で話ができるんです。

もちろん簡単な英語です。

 

 

3日目の朝。別れが近づいてきます。

ビエラとカーシャが洗面をおえて、部屋に帰ってきました。

残りが5時間くらいです。今まであまり話はしませんでした。

なぜかというと相手は二人の旅行です。こちらは一人。

だから気を使ったつもりです。

いいか悪いかはわかりませんがそれが大事だと思ったからです。

しかし、パリの駅に着く2時間くらい前には列車を降りる準備をしなくてはなりません。

(お互いに)だから5時間くらい前に話しかけました。

 

「一緒に写真を撮ってくれませんか。」

「いいですよ。」

カーチャが答えてくれました。

最初に自撮りで写りました。ビエラはカメラを持っていないので

伊妻のカメラとカーチャのカメラで交互に撮りました。

 

撮っているときに、コンパートメントの女性が通りかかったので

3人一緒の写真を撮ってもらいました。

伊妻はルンルンです。

楽しい時間は瞬く間に過ぎていきます。

(一期一会の世界ですね。)

 

モスクワからパリまで一緒になった娘さんと過ごせてよかったね。

「鼻の下が長くなったんじゃないの?」

「ブルルル、そんなことありません。」

 

「嘘ついても駄目だよ。」

「楽しかったんでしょ。嬉しかったんでしょ。」

「そりゃそうだけど・・・」

「ほんと運がいいね。」

 

 

 

 

「一生に一度あるかないかだね」。

国際列車に乗っていた乗客はポーランドのワルシャワや

ドイツで大体降りてしまいました。

だから他の部屋はガラガラだったんです。

 

写真を撮った後、カーチャはスマホでパリに泊まるホテルを確認していました。

自分が使えない、自由に使い的確な情報を手に入れて進んでいるのはうらやましい。

でも伊妻は伊妻。

 

 

パリに到着しました。先におります。

そうしたらビエラが、自転車の片方を持ってくれ列車の中から外まで持ってくれました。

「ありがとう。」

 

 

 

ハグはしません。

でも自分のために動いてくれた。

嬉しくて。嬉しくて。

手を差し伸べて握手をしました。

 

いつもより長く長く。

感謝でいっぱいです。

これで一生の別れです。

 

(ロシア風にハグすればよかったのかな。)

そしてカーチャは窓から手を振ってくれます。

私も生きていて初めて

一番長く手を振りかえし別れを惜しみます。

(ありがとう、二人のロシアの女の子。)

 

後で思ったんです。

挨拶をする。

手を振る。

握手をする。

生きている時に何人の人とするのだろう。

挨拶をする。

 

心と心が通じ合って何人の人と。

心を込めて。

 

 

相手の人は自分にとても大切な人だから。

いきているあいだに、知り合えたのだから。

「目の前の二人」