『あんだよ親分 その向こうっ傷は?』
私から親分と呼ばれて立ち止まったのは
白黒のブチ猫で この辺りを仕切っているいわゆるドラ猫である。
親分は今にも泣きだしそう~ かつ情けなさそうに私に訴えた。
『姐さん 聞いてやって下さいよ。近頃のミケ猫ときたら
義理も人情もねぇ。アッシのスケでありながら流れ者のトラ毛と
くっ付きやがった。トラ毛のヤツも渡世の義理など知っちゃいねぇ。
平気で寝取りやがる。そんなわけでトラ毛とサシで勝負してやった。
結果がこのザマよ メンボクねぇ。 グスッ!』
親分は そう言いながらヨタヨタと隣の家へ遅い朝飯をねだりに行った。
その日を境に親分をパタリと見かけなくなったので傷が災いして亡くなったのか
それとも例のトラ毛にシマ(縄張り)を取られたのかと 案じていたら
何のことは無い。
お屋敷を抜け出したシャム猫の年増の美人とブロック塀の上で寝そべっていた。
『親分』と声を掛けると 『へへへ』と笑った。
年増のシャム猫がチラ!と私を見たが
親分の額の傷痕が やけに気に入っている様子であった。
親分です