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「すみません!今年の誕生日、VRヘッドセットがほしいです!」
イチかバチかの覚悟で土下座した私は、どんな返答がくるのかわからず、頭を下げたまま一時の静寂を味わった。
5秒後、私に返ってきた言葉は、意外なほどに優しいものだった。
「ん?そのVRって、いくらぐらいするん?」
「えっと、多分4万円弱…。」
「ふーん。それホンマに欲しいの?」
「うん、欲しい。」
「ほな、お金はどうにかするから、買うたらええよ。」
「えっ!マジ!?やったぁ!」
どうやら、最大の難所を突破したようだった。
ここが一番の関門だと考えていたので、それを突破できたのが一番大きかった。
あとは、買う流れに身を任せれば良い。
買う許可は得られたんだ。
購入資金は貯まったら買おう。
ちょっとずつ自分の小遣いを積み立ててもいいし、ちょっと残業頑張ってもいいかもしれない。
それぐらいのゆっくりとしたイメージで描いていた。
だが、世界は自分の想定を「いい意味で」裏切ってきた。
買えると決まったあと、怒涛の勢いで物事が流れだしたのだ。
妻は、普段は受け付けないイラストの仕事を受けて来て、1週間ほどでさらっと購入資金を用意してしまった。
そして、トドメの一言。
「ホンマに誕生日でええの?まだ1ヶ月以上先になるけど、本当は今すぐにでも欲しいんじゃないの?」
「えっ…そりゃあ、今すぐ欲しいでしょ…」
「ほな買ってき。はい、4万円。」
こうして、あれよあれよという間に、Quest2を購入する段取りが整ってしまったのだ。
据え膳食わぬは男の恥、という言葉は、今の自分のためにある言葉なんじゃないか。
そう勘違いしてもいいほどに、あっという間に状況が「整った」のだった。
私は、一刻も早くQuest2を購入するために、4万円と少しの勇気を握りしめて家電量販店に向かったのだった。