鳩メモ(涼宮ハルヒ) | キジバトのさえずり(鳩に執着する男の語り)

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・谷川 流のライトノベル『涼宮ハルヒの溜息』(涼宮ハルヒシリーズの第2巻)の112~115ページ。

 慈悲深くも、しばしの休憩時間をハルヒが与えてくれたため、俺たちは車座で地面に座り込んでいた。
 ハルヒは俺が撮った映像を繰り返し再生しては、もっともらしい顔でうーんとか唸っている。
 朝比奈さんと長門の間には、ちょこちょこと寄ってきた子供が数名いて、「これ何のテレビ?」とか訊いていた。朝比奈さんは弱々しく微笑むだけで首を振り、長門は完全に無視して大地と一体化していた。
 いったい自分の撮っている映像が何のシーンなのかハルヒが明かさないものだから全然解らんのだが、次に超監督は近くの神社に行こうと言い出した。もう休憩終わりか。
「鳩がいるの」
 なのだそうだ。
「鳩がバサバサ飛び立つのを背景に歩いているみくるちゃんを撮るのよ! できれば全部白い鳩にしたいんだけど、この際どんな色でも目をつむるわ」
 土鳩しかいないと思うけどな。すでにヨレヨレになっている朝比奈さんの腕に自分の腕を絡め(逃げないようにだろう)、ハルヒは森林公園内を横断して県道に向かうようだ。俺は古泉と機材を分け合い、ジャングルの取材に訪れた撮影スタッフの現地人シェルパみたいな面持ちで後をつけて、着いたところが山の中のでっかい神社だった。久しぶりに来たなあ。それこそ小学生時の遠足以来だ。
 境内の「エサやり禁止」という看板の前で、ハルヒは枯れ木に花を咲かそうとするがごとく堂々とパン屑をまいていた。日本語が読めないとしか思えない。
 たちまち地面を埋め尽くす勢いで鳩の群れが押し寄せ、後を絶つことなく空から舞い降りてくる。鳩色になった神社の境内は、よく見るまでもなくかなり不気味だ。その鳩のカーペットの中に朝比奈さんが一人で立たされている。足元をつつき回されて唇を震わせるウェイトレス。その姿を俺が正面から撮っていた。何やってんだ、俺。
 画面の外ではハルヒが朝比奈さんから取り上げたイーグルだかトカレフだかの拳銃を携え、すちゃっとセイフティを解除した。何をするのかと思っていたら、いきなり朝比奈さんの足元に向かって射撃、
「ひえええっ!」
 鳩に豆鉄砲を喰らわす絵面がリアルで拝めるとは思わなかった。動物愛護協会がすっ飛んできそうな蛮行に、平和の象徴たちは一斉にクルッポとか鳴きながら舞い上がる。
「これよ! この絵が欲しかったのよね。キョン、ちゃんと撮ってなさいよ!」
 一応カメラは回っているから撮れているだろ。右往左往して飛び回る鳩の渦の中央で、朝比奈さんは頭を抱えてしゃがみ込んでいる。
「みくるちゃんコラーっ! 何座ってんの!? あなたは飛んでる鳩をバックにゆっくりとこっちに歩いてくるのよ! 立ちなさあい!」
 そんなシーンを悠長に撮っている場合ではなさそうだ。俺が覗いているファインダーの最奥から、動物愛護協会の代わりに神社の神主らしきジーサンがすっ飛んできたからである。袴姿だから神主の関係者で合ってると思う。俺が説教の一つでも覚悟していると、ハルヒは躊躇うことなく最終手段に出た。
 手にしていたCZだかSIGだかいうモデルガンを、そのジーサンに向けて撃ち始めたのである。灼けた鉄板に立たされたような踊りを見せる神主(多分)。シルバーサービス振興会から抗議が来そうな振る舞いだった。
「撤収ーっ!」
 やおら叫んだハルヒは、身を翻して走り出した。いつ移動したのか、長門はとっくに遠く離れた鳥居の下で俺たちを待っている。放っておけば逃げ遅れそうな朝比奈さんを、俺と古泉が両脇から抱えて荷物と一緒に持ち上げた。
 監督が逃げ出したんだ。主演女優をスケープゴートにするわけにはいかんだろ。

 

 

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(藤本注・アニメ版では『涼宮ハルヒの憂鬱』の第22話「涼宮ハルヒの溜息III」でこのシーンを拝める)


・谷川 流のライトノベル『涼宮ハルヒの溜息』(涼宮ハルヒシリーズの第2巻)の203~205ページ。

 やがて停車したのは、がら空きの駐車場。神社の参拝客専用だ。昨日ハルヒが神主と鳩に銃口を向けるという暴挙をおこなった、あの神社である。おかしいな。日曜の今日なら、もっと人がいてもよさそうなものだが。
 タクシーから先に降りていた古泉が、
「涼宮さんの昨日の言葉を覚えていますか?」
 あんな妄言の数々をいちいち覚えていられるか。
「行けば思い出しますよ。どうぞ境内へ」それから言い足した。「今朝にはもうこの状態だったようですよ」
 角石を積み重ねて作られた階段を上がっていく。これも昨日来た道だ。ここを上がると鳥居があって、本殿に続く砂利道があり、そこには土鳩の群れが……。
「…………」と俺は沈黙する。
 わらわらいたのは確かに鳩だった。移動式絨毯のように地面をつつき回している鳥類の一群。しかし昨日と同じ鳩たちなのかどうかは自信がない。
 なぜなら、一面に広がる鳩連中の羽根が一羽残らず真っ白に変わっていたからだった。
「……誰かにペンキでも塗られたのか」
 それもたった一夜で。
「間違いなく、この白い羽根は鳩の身体から生えている彼等自前のものです。染められたのでも脱色でもありません」
「昨日のハルヒの銃撃がよほどの恐怖だったんだな」
 それとも誰かが大量の白鳩を持ってきて、先住の土鳩と入れ替えたんじゃないのか。
「まさか。誰がそんなことをする必要があります?」
 考えてみただけだ。結論はもう俺の中にある。口にしたくないんだよ。
 昨日、ハルヒはこんなことを言っていた。
『できれば全部白い鳩にしたいんだけど、この際どんな色でも目をつむるわ』
 つむってねえじゃねえか。
「そういうことです。これも涼宮さんの無意識のなせる業でしょう。一日の誤差があったのは幸いですね」
 エサをくれるとでも思ったか、ざわめく鳩たちが俺たちの足元に寄ってくる。他に参拝客はいない。
「このようにですね、涼宮さんの暴走は着実に進行中なわけですよ。映画作りの弊害が、現実世界に押し寄せてきているのです」

 

 

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(藤本注・アニメ版では『涼宮ハルヒの憂鬱』の第23話「涼宮ハルヒの溜息IV」でこのシーンを拝める)


・アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の第24話「涼宮ハルヒの溜息 V」に、ハルヒのわがままな願望によって、絶滅したはずのリョコウバトが絶滅を免れる(一時的)

 

 

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・アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の第25話「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」に、SOS団が作った映画が出てくるが、その映像中に鳩が映し出される。

 

 

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