静岡と甲府を東海道本線、身延線を経由して結ぶ特急列車「ふじかわ」に強力な競合相手が誕生しました。
それが「中部横断自動車道」です。
2021年に中部横断自動車道の南部ICから早川下部温泉ICが開業したことにより、静岡と山梨が高速道路で結ばれました。
日本でも指折りの鈍足特急と呼ばれる特急「ふじかわ」は生き残ることが出来るのでしょうか?
特急ふじかわの概要
特急「ふじかわ」は1995年まで運行されていた急行「富士川」を特急に格上げした際に運行を開始しました。
また、使用車両である373系もこの時デビューしました。
373系は基本編成は3両編成で、グリーン車を連結しないモノクロス編成です。
普通列車にも使用できるよう乗降ドアに両開きドアを採用したり、デッキを省略したりなど特急車両にしては格下感が否めませんが、座席はリクライニングシートを採用しており特急車両としての最低条件は満たしているような車両です。
特急「ふじかわ」は遅いということで有名で、東海道本線の区間では最高速度110km/hを出しますが、ローカル線である身延線区間に入ると最高速度は85km/hに落ちます。
さらに西富士宮駅から身延駅の間は富士川沿いの急峻な崖沿いに無理やり線路を敷いたため、制限速度が45km/hに抑えられるような箇所も多く、全区間の表定速度は53.2km/hとなっています。
ローカル線をメインで走る特急ながら1日7往復の運行があり、需要は割とあります。
▲特急「ふじかわ」で使用されている373系。
性能は決して低くないためスピードを出せる所ではその性能を発揮します。
中部横断自動車道の概要
中部横断自動車道は静岡県の新清水ジャンクションから長野県の佐久小諸ジャンクションを結ぶ高速道路として現在も建設が続いている高速道路です。これまで山梨と静岡を結ぶ交通手段と言えば身延線か、国道52号線等の一般道しかありませんでしたが、2021年に南部ICと早川下部温泉IC間が開通したことにより静岡と山梨が高速道路で結ばれました。
中部横断自動車道は2つに分かれており、新清水JCTと双葉JCTの区間と、長坂JCT(予定)と佐久小諸JCTの区間です。
全て完成すれば既存の高速道路と合わせ、静岡から新潟まで高速道路で結ばれ、文字通り中部を横断できるようになります。
▲中部横断自動車道のルート。
新清水JCTから増穂ICまでの山間部はほぼトンネル区間となっており、身延線に比べ非常に直線的なルートとなっている。
特急「ふじかわ」と高速バスの比較
中部横断自動車道を走る高速バスと特急「ふじかわ」では料金と所要時間のどのくらいの差があるのでしょう?
以下の表にまとめてみました。
こうしてみると、高速バスの方が所要時間が15分も短く、料金も4割ほど安いため、これだけだと高速バスのほうが圧倒的に有利です。
一方、運行本数を見ると特急ふじかわは1日7往復毎日運転されているのに対して、高速バスは1日2往復、しかも土休日にしか運転されていません。
これはコロナウイルス感染拡大による措置で、将来的には毎日運転、増便が行われるかもしれません。
特急ふじかわの将来は?
料金、所要時間の面では圧倒的に不利な状況に立たされている特急ふじかわですが、結論から言うと特急ふじかわが今後数年の間に廃止、減便される可能性は低いと考えます。
根拠は以下の通りです。
短距離の利用客が多い
特急ふじかわは短距離利用を促進するため、身延線内の利用では安い特急料金が設定されています。
乗車距離が30km以内であれば330円、50km以内であれば660円で自由席に乗ることが出来ます。
この30kmという距離がなんとも絶妙で、富士からなら富士宮まで、甲府からなら甲斐岩間まで乗ることができ、通勤・通学でも気軽に利用することが出来ます。
また、身延線の普通列車の本数は少ないため、ちょうどいい時間に特急が来た場合乗るという方も多いでしょう。
高速バスは基本的に静岡から身延・甲府の移動需要しか拾えないため、県内移動の需要をカバーできるのは特急ふじかわにしかない強みです。
▲昔の南甲府駅には特急ふじかわの自由席特急料金の安さをアピールする広告が掲げられていました。
人口の多いエリアで高速道路と競合していない
身延線と中部横断自動車道は競合している関係ですが、地図をみると並走しているのはわずかな区間で、しかも沿線人口の少ない場所で並走しています。
身延線の大半の利用客は富士から西富士宮、もしくは甲府から鰍沢口ですがこの区間で中部横断自動車道は身延線と大きく距離が離れています。
甲府市近郊の身延線と中部横断自動車道の位置関係を見ると、身延線は甲府盆地の中央を走っているのに対し、中部横断自動車道は甲府盆地の西側を通っています。
これだと甲府駅近辺に住んでいる人はまだしも、中央市や市川三郷町などに住んでいる人は高速バスの停留所までかなり遠いため、特急ふじかわを使う方が便利でしょう。
富士・富士宮市近郊と中部横断自動車道の位置関係を見ると、中部横断自動車道はほとんど人が住んでいない山の中を走っており、富士・富士宮市に住んでいる人が中部横断自動車道を使う人はほとんどいないでしょう。
また、停留所もないため、静岡や山梨に向かう場合は特急ふじかわの方が便利と思われます。
以上のことから、特急ふじかわは当面安泰かと思われます。
中部横断自動車道開業後も特急ふじかわの利用客が激減したということはなく、開業前後で乗客の数はほとんど変わっていないという印象です。
JR東海としてもそれなりに需要があり、新幹線に乗客を誘導してくれる特急列車を廃止するメリットはないと思われます。
しかし身延線、特急ふじかわを取り巻く環境は決して順調ではなく、列車の利用客が自家用車に流れたり、沿線人口の減少(特に山梨県南部)など様々な問題はありますが、当面の間は地域の足として活躍することでしょう。