問題提起
「 従兄と事実上の養親
子関係にあり、養子縁組
準備を進めていた労働者
が、労災事故により死亡
し、その配偶者は、遺族
補償年金の受給をうける
ことになった。
 その後、約一年後、養
子縁組の届出をしたとこ
ろ、労働基準監督署長か
ら、届出日以降、労災保
険法16条の4第1項3
号の遺族補償年金受給権
が消滅するとの通知を受
けた。」






















当事者の意識
「 労災事故発生前から、
事実上の養親子関係にあ
り、届出により法律上の
養親子関係に変わっただ
けで取扱いが異なるのは、
おかしいのではないか。」


















解決策
「 裁判例(佐伯労基署
長事件(福岡高等裁判所
・昭和51年12月20
日判決)によれば、

『 受給権発生前から事
実上の養子であった者が、
受給権発生後法律上の養
子になったとしても、被
扶養利益喪失を解消する
身分的関係及び財産的関
係の変動がないから、失
権事由に当らないと主張
する。
 まず、遺族補償年金の
受給権は、労働者の死亡
により被扶養利益を喪失
した遺族に対してそれを
填補することを目的とし
て支給される。そこで、
受給権者において、被扶
養利益喪失状態が解消さ
れる場合、その者は遺族
補償年金を受けることが
できる遺族でなくなった
(労災保険法第一六条の
四第二項)のものとし、
その受給権を消滅させる
事由が同法第一六条の四
第一項各号が規定されて
いる。
 そして、同条第一項二
号ないし四号の失権事由
は、受給権者の身分関係
変動に伴い、当然にその
被扶養状態に変動が生ず
るものであることを前提
としている。
 
 ところで、事実上の養
親子とは、当事者間に養
親又は養子と認められる
事実関係を成立させよう
とする合意があり、扶養
の事実関係があるが養子
縁組の届出を欠く場合を
いう。その後、養子縁組
の届出がされ法律上の
養親子関係が成立しても、
当事者間には扶養に事実
的に変動がないのが通常
である。
  しかし、養子縁組の効果
として、嫡出子の身分取得、
養親及び養親親族等との親
族関係、相続・扶養等の親
族法上の法律関係は、法律
上の養親子関係成立により、
発生する。
 したがって、事実上の養
親子が、法律上のものとな
ることで、従前の事実上の
養親子関係のもとにあった
とき以上の新たな法律関係
が形成され、当事者間に被
扶養状況の変動が生じたも
のといえる。

2 受給権発生前から事実
上の親子関係が成立して継
続している場合、これが受
給権者資格要件の障害とな
り、受給権発生後の消滅事
由となる旨の規定もないの
で、その関係が継続する限
り、受給権は消滅しない。
 受給権発生前と受給権発
生後の事実上の扶養関係を
対比すると、その発生時期
が異なるとはいえ、両者の
間に実質上異なる点が存在
するとは考えられないのに
法律上その取扱いを異にす
るのは、受給権発生後法律
上の養子縁組に高められ、
身分上・財産上の効果が発
生するに至ったにもかかわ
らず、これを失権事由に当
らないとすることは、受給
権発生後の事実上の養親子
関係の成立が失権事由とな
ることと比較して、均衡を
失する結果になるからであ
る。

3 労災保険法上、遺族補
償年金の給付を受ける者を
遺族に限定しており、更に
同法第一六条の四の第二項
において、第一項の遺族補
償年金を受けることができ
る遺族でなくなる旨の規定
の存在並びに前記理由から
みても、本件の場合、控訴
人が訴外Aと法律上の養子
縁組をしたことは、労災保
険法第一六条の四第一項第
三号に該当するものと解す
るのが相当である。』

 としています。


 本件の場合も、受給権発
生後に、養子縁組届出をす
ることで、受給権者は、法
的に養親から扶養されるこ
とが期待でき(民法877
条)、労働者の死亡による
被扶養利益喪失状態が解消
するため、遺族補償年金の
受給権が喪失します(労災
保険法第16条の4第3
項)。」