そこに私の名前はなかった
14枚目のシングルの発売が決まって、フォーメーションが発表された
4月にある国立競技場でのライブに向けて、グループの活動はさらに盛り上がっていくだろう
そんな中、私は選抜メンバーとして名前を呼ばれることはなかった
もちろん、BACKSが嫌だなんてことはない
ただ、夏鈴さんが真ん中にいるこのシングルを一緒に活動したかったなってだけ
BACKS曲のセンターを任された
何で私なんだろう
私よりもダンスが上手いメンバーだって、表現力がある子だって、歌が上手い子だって、たくさんいる
私なんかができる訳ない
藤吉「村山…」
村山「…」
藤吉「村山!」
村山「夏鈴さん⁈どうしたんですか?」
藤吉「…なんか…大丈夫かな…って」
村山「何がですか?」
藤吉「なんか…いろいろ…。悩みとかない?困ってることとか。」
村山「夏鈴さん…ふふ、大丈夫ですよ。ありがとう、ございます」
藤吉「本当?」
村山「ほんとです。…あ、メイク呼ばれたので、先行きますね」
藤吉「…あ、うん」
最近、また習慣になっている考え事をしていたら、夏鈴さんが私に話しかけていたみたいで
そのことに気がつかなかった私は、藤吉さんに肩を叩かれたことで気がついた
悩みって言われても、今私が考えていることは、ただの考え事であって、悩みとかじゃない…と思う
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村山が、何かを抱えている気がする
楽屋にいても、いつもなら3期ちゃんの誰かと話してるのに
ひとり、楽屋の隅っこで一点を見つめることが多くなった気がする
本当は、ちゃんと話を聞いてあげたいのだけど、ありがたいことにセンターを任せていただいて
国立でのライブもあるから、私自身も自分のことを優先にしてしまって、なかなか踏み込めていなかった
そこさくの撮影があるからって久しぶりにメンバー全員が揃って
村山のことが心配で楽屋にずっといたら、天ちゃんがいじってきたり
4期ちゃんとも仲良くなってきたから、話しかけに行ったりで、村山に話しかけに行くタイミングを失ってしまった
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いよいよ、国立のリハが始まる
こんなに恵まれた大きな会場でライブが出来ることなんて今後の人生でないだろうから
みんなが一致団結して、リハに取り組んでいた
みんな、きらきら輝いていて
対照的に、私はまだまだ何も出来ていない
どれだけ練習しても上手くならない
みんなの姿が眩しくて
その光にかき消されて、鏡には私の姿が映っていなかった
リハーサルが終わって、別仕事に向かったり、帰ったりしていて、リハ室に残っているのは私含め数人だった
どうしても、自分に納得できなくて
もっと頑張らないとって、休憩なんか取ってちゃいけないって、ただひたすらに身体を動かした
今日から、本格的に通したり、ダンストラックも含めて流れを確認する
大事な時間が始まるのに、朝の目覚めは最悪だった
最近は眠りが浅くて、眠れたと思っても、ライブで失敗する夢ばかりを見て、また起きてしまう
食事をする暇があるなら練習しなきゃって、何回も食事をパスして
そんなことを繰り返していたからか、吐き気と倦怠感で目を覚ました
部屋の壁をつたいながら、何とかトイレに辿り着く
顔をうずめても、ほとんど食べていない私からは、何も出てこなくて
寝室の方から微かに聞こえるアラームの音が、準備をし始めないと遅刻してしまうことを教えてくれる
鏡に映る私は、ひどい顔をしていて
顔色も悪いし、目の下には濃い隈もできている
私なんかに時間を使わせてはいけないから
今は大事な時期だから
リハのときは汗でメイクが落ちるからといつもは薄くしている私でも、メンバーにバレたくないという一心でいつもより濃いメイクの私が出来上がった
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本格的にリハが始まって、唯衣ちゃんのダンストラックとか、4期ちゃんのマモリビトとか、今まで見れていなかった部分もリハの流れの中で確認できて
みんな凄いな、成長してるんだな、頑張ってるんだなって、みんなの輝きをパワーに変えて、もっと頑張りたいなって思っていた
そんな中、気になるのは村山のこと
ずっと気にしてはいて、何度か声をかけたのだけど、大丈夫ですって言って、いつも逃げられてしまう
ドライフルーツを見ていたとき、村山の顔色が悪い気がした
これが終わったら、今日のリハは終わりだから、今日こそは話を聞こうと考えていたそのときだった
ぐらりと村山の体が傾いて、その場に倒れてしまった
苦しそうな呼吸の音が、リハ室中に響く
何かしなきゃと思ったけど、ずっと気がついていたのに、何も出来なかった私に何が出来るのかって、負の感情が私の心を支配し始めて、ただ村山を見つめることしかできなかった
武元「夏鈴‼︎」
藤吉「…え?」
武元「一緒に美羽運んで」
動けなかった私に声をかけてくれたのは唯衣ちゃんだった
救護室まで行った後、唯衣ちゃんは、美羽を頼んだよと言って出ていってしまった
多分、私が村山のことを気にしていることに気づいていたのだと思う
村山の体は熱を帯びていて
メイクが落ちた目の下には隈が出来ていて、ベッドからだらりと垂れた腕は骨張っていて
ご飯も睡眠もちゃんと取れていなかったのかと気がついていたはずのことにまた気付かされてしまう
どうしてもっと強く止めなかったのだろう
そんな自己嫌悪に支配される
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ドライフルーツの途中、今までに感じたことのないくらい強い目眩が来て、倒れてしまった
メンバーのみんなが私に寄ってきて、声をかけてくれた
本当は大丈夫ですって言わなきゃなのに、限界を迎えてしまった体は言うことを聞いてくれなくて、私の意思とは関係なくどんどん体は重くなっていく
誰かに頭を撫でられている感覚がして目が覚めた
頭の下には氷枕があって、ひんやりとして気持ちいい
私は、頭にある手の主は誰なのかが気になって、視線を移動させた
藤吉「あ…」
村山「…夏鈴…さん?」
藤吉「すごい熱だったんだよ。無理しないで言ってくれれば良かったのに」
村山「すみません…これ以上、迷惑かけたくなくて…」
藤吉「迷惑なんかじゃない。美羽はいつも頑張ってる。だからさ、たまには甘えてもいいんだよ」
村山「…」
藤吉「ずっと心配だった。いつもおーぞのちゃんとかとお話ししてるのに、最近はひとりでいることが多かったから。おーぞのちゃんも天ちゃんも、メンバーみんな、美羽のこと、心配してたんだよ」
村山「私、センター向いてないんです。みんなの方が歌もダンスも上手いし、感情とか素直に出せるし。何にも出来ない私がセンターなんて。他の子の方が、もっと良い曲に出来たのに」
藤吉「そんなことない。メンバーみんな、美羽がセンターになって喜んでたよ。美羽がBACKSのセンターなんて、心強い、また美羽のセンター見たかったから嬉しいって。」
村山「…」
藤吉「私も、美羽がセンターで嬉しい。国立で、一緒にセンターできるし。それに、美羽はこんなにすごい子なんだよってBuddiesに見せたい。美羽がこんなに頑張ってるんだってみんなに知ってほしい。」
村山「夏鈴さん」
藤吉「ん?」
村山「私も、夏鈴さんとセンター出来て嬉しいです」
藤吉「ふふ、ありがとう。…今日はさ、お家で身体を休めて、元気になったらまた一緒に踊ろう」
村山「…はい」
藤吉「あ、やっと笑った。笑ってる美羽、かわいい。私は美羽に笑顔でいてほしいから、何かあったらいつでも相談して」
村山「夏鈴さん…ありがとうございます」
Fin…
国立、良かったですね
配信で観ていたのですが、Nobody’s faultが壮大でした。これが櫻坂だと見せつけられましたね。
ネタがなくて、放置していたらこんなに時が過ぎ去っていました
反省です…