あの日、わたしは突然車をおり、

何かに引っ張られるようにS天満宮のあるお山を目指した。

そこは滅多に人の来ない寂しい神社ではあったが、

その時はなぜか怖くもなく、わたしは取り憑かれたように石の階段を駆け上った。

 

 

なぜ、ここに来たのだろう?

腑に落ちないまま参拝を済ませると、わたしはまた石の階段を降りて行った。

 

 

下まで来ると、

道はY字路に分かれていて、

わたしは素直に家への帰り道──つまり右の道を通ろうとした。

が、ふと見ると大きな蟷螂(カマキリ)がじいっと、こちらを見つめている。

時折、逆三角形の小さな頭を動かしながら、蟷螂はそこを動こうとはしなかった。

わたしは仕方なく家とは反対の道──左へ行こうとした。

そして、叫んだ。

 

 

「うわ!!」

 

 

なんと、

左の道にも大きな蟷螂がいたのだ。

少し後ろに下がり、Y字路を視界に収める。

まるでシンメトリーの絵のように2匹の蟷螂がわたしをじいっと見つめていた。

 

 

 

 

後日、

ホイットリー・ストリーバーの『コミュニオン』という本を読んだ。

そこに登場するビジター(エイリアンのことをストリーバーはそう呼ぶ)は、

記憶の置換えをするらしく、本当はビジターに遭遇したのに「梟を見た」という記憶しか残らないなどなど。

それを読んで怖くなった。

あのY字路にいた2匹の蟷螂は、本当に蟷螂だったのだろうか?

もしかしたらわたしは何か得体の知れないものに遭遇していたのではないか?

そして気づいた。

『コミュニオン』の表紙のイラストに。

そこに描かれたビジターの顔はあきらかに逆三角形をしており、それはまるで蟷螂の尖った顔のように見えたのだ。

 

 

思えば…

あの時、わたしはなぜ意味もなく車を降りたのか?

なぜS天満宮のあるお山になど登ったのだろうか?

2匹の蟷螂など本当にあそこにいたのだろうか?

今もはっきりとした答えは出ていない。