今回は 萌え立つ新緑の青木ケ原樹海 大室山北麓の「大室極相林周辺」(富士風穴→大室極相林→本栖風穴→本栖氷穴)を ご案内させて頂きました。

↑AM 7:40 新緑のモミジと富士山(南都留郡富士河口湖町 富士ヶ嶺にて)
↑AM 8:00 青木ケ原樹海へと入って行きます。
↑スタートしてすぐに、ブナの葉っぱのオトシブミ(落とし文)
オトシブミ科の虫さんは 葉っぱを巻き上げる途中で、ゆりかごの中心部に卵を産みつけます。孵化した幼虫は このゆりかごを食べながら育ちます♪
↑イワセントウソウ♪(岩仙洞草)
↑ミソサザイの美しい囀りを聞き、上を見上げると3羽が遊んでいました♪
ミソサザイは、日本でも最も小さな鳥のひとつです♪
↑貞観6年~8年(864年~866年の貞観大噴火)石塚山から流れ出た溶岩流の跡です。(パホイホイ溶岩による縄状溶岩)
これから富士風穴へと歩を進めます。
↑巨大な溶岩トンネル「富士風穴」へと下りて行きます。
富士風穴は観光洞窟でないので、個人で入洞するには富士河口湖町の許可が必要です。
この富士風穴は 全長230m以上、地上との高低差が最高約20mあり、入口から100mの所にアイスパレス(氷の宮殿)という場所があります。
今回は許可を受けていないので入洞しません。
↑富士風穴 洞窟口前の広場には、幕末から明治~大正にかけて、この場所に2階建ての家があったそうで、横たわった木材が今でも残っています。

1階では蚕を育て、2階では働く人が寝泊まりしていたそうです。 

冷蔵庫代わりに 蚕の卵(休眠卵)を洞窟内で保管し、必要に応じて外に出す事により「夏になった♪」と驚き、勘違いして孵化します。それを繰り返す事でより多く絹の生産が出来ました。


一匹のカイコは500~700粒の卵を産みます。

卵は非休眠卵と休眠卵の2種類があり、非休眠卵は 産卵から約2週間で孵化しますが、休眠卵は 最低3ヶ月、5℃以下の低温に置いておかないと孵化しません。3ヶ月ほど低温に置かれた後、20~25℃に出すと10~12日で孵化するわけです。

↑オオコウモリ形の富士風穴 洞窟口♪
↑ギンリョウソウ(銀竜草)の芽吹き♪

ギンリョウソウはベニタケ類の菌糸から栄養を得ています。特に光を必要としないため(光合成をしない)暗い森の中でも暮らしていけます。

花を咲かせ、実を付け、種が落ちると虫たちが食べ、その虫の糞粒と菌類が関係を結ぶ事が出来ると発芽します。

↑マイヅルソウ(舞鶴草)の蕾♪
↑チシオタケ♪(血潮茸)

チシオタケは傷が付くと、血のような鮮やかな赤色をした液が内部から染み出てくるという特徴を持っています。但し、古いものは液が出なくなります。

↑ミヤマスミレ♪(深山菫)
↑幼菌時のツガサルノコシカケ(栂猿腰掛)の溢液現象。
吸収し過ぎた養分や水分を排出します。これを溢液現象(いつえきげんしょう)といいます。
↑美しい新緑です♪
↑精進口登山道と大室極相林の分岐点!
これから大室極相林へと歩を進めます。
↑ユキザサ(雪笹)の蕾♪
↑この場所が大室極相林です♪

大規模なスコリア噴出や溶岩流で裸地となったこの場所に、まずは苔植物や地衣類が侵入し、時間と共に遺骸となり土壌を形成し植物が育つ環境を整えます。
(ちなみに1㎝の土が出来上がるまで100年かかります)

保水力や養分を含んだ薄い土壌が出来ると、ススキなど 一年生の植物が繁茂する様になり、やがて多年生の植物が出現し、植物の根が溶岩の風化を促進し、徐々に樹木が成長出来る土壌が形成されます。
土壌環境が整って来ると、強い光を好む先駆樹種のアカマツやクロマツなどの低木林を形成します。
この様な陽樹が育って来ると林床に太陽光が届かなくなります。陽樹の成木が自ら光を遮ってしまうわけです。
そして、いつしか陰樹の種が侵入し、陽樹の成木の下で成長を始めます。暫くすると陽樹の成木に陰樹が混じった混交林が出来ます。
陰樹の高木林が形成される様になると林床に光が届かなくなり、陽樹は減退→消滅し 陰樹を樹種とする高木林が形成されます。陰樹の幼木は少ない光の中で育つ事が出来るので、幼木と成木の入れ替わるだけの林となり、構成する樹種は ほとんど変化しなくなります。

これ以上 植生が変化しない安定した状態を「極相」(きょくそう)といいます。

原生林のほとんどは陰樹林(ブナやミズナラ等)で、長期間に渡って樹林が持続すると、安定した極相林(きょくそうりん)になるわけです。

↑イヌブナ(犬橅  別名 クロブナ)の発芽♪
↑大室極相林に足を踏み入れた瞬間、ホンドリスと出会う事が出来ました♪ (写真中央がリスです)
遠目で動きを観察していたら、何やらエサを見つけ、イヌブナの倒木の上で一生懸命に食べ始めました!
その姿がカワイイこと...♪
↑カツラ(桂)の新緑♪
↑大室山北麓のブナ林は、「やまなしの森林100選」に選ばれており、通称「ブナ広場」と呼ばれています。

青木ケ原樹海の大室山は 富士山の側火山のスコリア丘で、約3000年前に形成されたと考えられおり、大室山北麓のブナ広場周辺には、大室山の噴火によるスコリアの堆積斜面が広がり、天然林と考えられる落葉広葉樹となっています。 
青木ケ原溶岩流を噴出した噴火口の位置から、ここの斜面は、青木ケ原樹海が形成された貞観大噴火の影響をほとんど受けていない場所です。

そして、このブナ広場(大室極相林)には ブナ、イヌブナ、カツラ等の広葉樹が主体で、その他にミズナラ、アサダ、キハダ等の広葉樹、モミ等の針葉樹も混在しています。


気候的には冷温帯ですが、地球温暖化に伴い気候変動が著しい事や、人間の生活様式が変わった事により、多くの樹木や植物にもその影響が出始めています。
その影響とは...
↑【参考写真 2022年9月8日撮影】写真は樹齢700年以上(推定)、荘厳な板根が発達したミズナラ(水楢)の巨樹です。
2020年10月30日 (金) に、青木ケ原樹海 大室極相林を散策した時、ミズナラの板根からの木くずを10箇所くらい発見しました。大量発生したカシノナガキクイムシによるナラ枯れ(カシノナガキクイムシが運んで来たナラ箘で)の恐れがあるため、すぐに「富士東部林務環境事務所の県有林課」に連絡しました。
その後、プロの造園師によるカシノナガキクイムシ拡大防止 (2021年6月5日に)をして頂きましたが、県の予算捻出等で半年以上も経過してしまい、ミズナラは瀕死の重体となってしまいました。その後、私は何度も足を運び ミズナラの容態を確認して来ましたが、どんどん容態が悪くなる一方で、ついにナラ枯れしてしまいました。
そして、大きな枝の落下や倒木の危険がある!と山梨県は判断し、ついに2023年9月14日~15日に空師による伐採・搬出となってしまいました。(泣)

↑伐採されてしまってから、約8ヶ月経過したミズナラの切り株です。ミズナラは萌芽更新率が高い樹木なので、懸命に蘖(ひこばえ)を探しました。
しかし残念ながらミズナラの蘖による萌芽更新はありませんでした。(泣)


 ちなみにヒノキ、スギ、アカマツ等は萌芽更新しない樹木ですから伐採された後、切り株は根刮ぎ排除されます。
↑ミズナラの切り株の根元から、ヤマブドウ(山葡萄)の出芽♪
↑ミズナラの切り株に発生した、アラゲコベニチャワンタケ(粗毛小紅茶碗茸)
↑可憐なヤマシャクヤク♪(山芍薬)
私は「白タマちゃん♪」と呼んでいます。純白の花弁は清楚で美しいです。
その美しい白タマちゃんにピンチが訪れています。
それは 野生の鹿が山芍薬の葉っぱの味を覚えたようで、花部分は残して葉っぱのみ全て食べてしまっていました。今後この様な事が続くと、青木ケ原樹海の山芍薬は絶滅してしまうのではないか?と、危惧の念を抱きます..

↑「ブナ爺さん・コブ爺さん」と親しまれているブナ(橅)です♪ 
樹齢は400年以上(推定)、幹周り4.6m(地表から1300mmの位置)、樹高 約25mの巨樹です♪

ブナは雨が降ると葉っぱは ロート状になり、雨を集めようとします。
葉っぱから枝へ、枝から幹へと雨が流れ、根っこに水が流れ込みます。なのでブナの幹はいつも湿っていて、苔や着生植物が育ちやすいのです。

ブナは「森の女王」とも呼ばれていますが、漢字で表すと「橅」(木へんに無)と書きます。 
日本では湿度が高いため、建材等には向いていません。
実は 太平洋戦争終盤では金属が不足し、ゼロ戦の生産も ままならぬ自体になりました。その時ゼロ戦の機体にブナが使われた訳です。プロペラにも合板として使われました。特攻機として..
なので、日本に多く育っていたブナは伐採され、今ではブナの巨樹は激減してしまったとも言われています。


※巨樹の定義..
環境省では地上1300mmの幹周りが、3m以上のものと定められています。

↑お昼休憩中に、イントロクイズとマリンバンド演奏♪ 

本日のお披露目曲は..
「日曜日よりの使者 / ザ・ハイロウズ」
「TRAIN-TRAIN / ザ・ブルーハーツ」
「いとしのエリー / サザンオールスターズ」
「水平線 / back number」の4曲♪


↑モミ(樅)の巨樹♪

モミはクリスマスツリーのイメージがあり、寒さに強い感じを受けますが、日本固有種であるモミは、実は寒さに弱い樹木です。
大気汚染に非常に敏感な木で、今では 都市などでは育ちにくくなっています。また大木にはなりますが、日本でのモミの寿命は短く、100年~150年くらいで枯れてしまいます。(長くて300年くらい)

余談になりますが、鳩時計の重りの形は モミぼっくりです。重り自体は金属ですが、モミぼっくりのデザインが使われています。

↑ヤマブドウ(山葡萄)の森♪
↑苔むしたブナの涅槃樹。

天寿を全うし、人知れずひっそりと倒れた樹木たちを 私は「涅槃樹」(ねはんじゅ)と呼んでいます。

↑涅槃樹となった倒木で育つコツボゴケ♪(小壺蘚)
↑苔むしたブナの涅槃樹から、ブナの出芽♪
苔の上に落ちたブナの種子が、苔の水分と朽ちた倒木の養分で発芽して育って来ています!
これからもっと成長すれば、ブナの倒木更新となりますね♪


※倒木更新とは..倒れた樹木を苗床にして、次世代の幼木が育つ事をいいます。
苔むした倒木に他の樹木の種が落ち、苔の水分と養分、倒木が朽ちていく養分で芽吹き、幼木が育って行きます。

↑ミヤマエンレイソウ♪(深山延齢草)

↑青木ケ原樹海の飛ぶぬいぐるみ!マルハナバチ♪(丸花蜂)
モフモフのオレンジ色のおしりがカワイイです♪
↑こちらは三股のミズナラ(水楢)の巨樹で、「スクリュー爺さん」と呼ばれて親しまれていましたが、残念ながらこちらもナラ枯れしてしまいました..(泣)
↑カツラ(桂)の巨樹♪

カツラは水を好む樹木で、ブナと共存しています。

カツラの根元を2mくらい掘ると水が出て来るそうです。

↑大室極相林から本栖風穴へと歩を進めます。
↑倒れた樹木を苗床(倒木更新)にして生きて来たホソエカエデの老木♪(細柄楓)
倒れていた樹木は既に朽ちて無くなっており、ホソエカエデの根は宙に浮き、踊っている姿に見えます。
このように、朽ちてなお新しい命の糧になる輪廻転生の森は生命力が溢れ出ています!

↑縦型の溶岩トンネル「本栖風穴」
この辺りは湿地帯だったらしく、石塚山から噴き出した溶岩中に含まれる水分や窪地の水が、溶岩の高熱(約1200℃)で揮発成分化し、溶岩中に蓄えられた上昇したガス圧が、溶岩を吹き上げて地表に丘地形を形成しました。
↑コミネカエデ(小峰楓)の蘖♪(ひこばえ)
↑これから溶岩トンネル「本栖氷穴」に入洞します。
↑本栖氷穴は総延長68.1mの横穴の洞穴です。
この洞穴に関しては入洞の許可はいりませんが、安全対策は必須条件です。

↑バナジウムを多く含んだ氷筍♪
バナジウムは 地中や海中に含まれているミネラル成分の事で、富士山の岩石は バナジウムが豊富に含まれた玄武岩が主体となっています。
富士山に降った雨や雪が玄武岩に浸透していく過程で、バナジウムを溶かし込んでいると考えられています。
↑洞穴の壁から滴る水が氷となります。
↑マンタ形の本栖氷穴 洞窟口♪
ケイビング(洞窟探検)を終え、山芍薬群生地へと歩を進めます。

↑こちらの山芍薬は、鹿の食害に遭わずスクスクと育っています♪
↑深さ2m以上ある溶岩樹型。
流れ出た約1200℃の溶岩が樹木を取り囲み、冷えて固まった時に燃えた木の幹の跡です。
↑ホオノキ(朴の木)の蘖♪
この後 PM16:14にゴールし、無事にご案内を終えました♪
↑活動データとして記載しておきます。

歩いた距離...4.2km
歩いた時間...8時間09分(ゆっくり)
歩いた歩数...8598歩
累積標高(登り)...120m
累積標高(下り)...120m
消費カロリー...875kcal

↑PM 16:30 帰路途中からの富士山♪(朝と同じ場所、南都留郡富士河口湖町富士ヶ嶺にて)
↑PM 17:25 富士山の真西から望むと、正面に大規模な侵食谷「大沢崩れ」を見る事が出来ます。(富士宮市人穴にて)

今日一日、8時間かけて ゆっくりと4kmを観察しながら歩いた事で、一期一会の出会いが多くありました♪
良き日♪ になったことに感謝です。