先日「中途半端に少額の手付を授受するくらいであれば、むしろ手付を授受しないほうが契約の拘束力が高まる」という趣旨のことを書きました。
しかし、「契約は守られなければならない」のが原則とはいえ、誰にでも事情の変化等はありえるわけで、契約を取りやめることが一切できないというのは、宅建業者や不動産ファンド等のプロどうしの取引はまだしも、買主が一般消費者の場合には多少酷であるように思います。
したがって、取引慣行に則って手附の授受を行うほうが望ましいでしょう。
ところで、宅地建物取引業法では次のような定めがあります。
第47条 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(1,2号省略)
3 手付けについて貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為
買主にとって、手付を支払うことは大きな問題であり、そのために慎重な判断が行われることが期待できます。(衝動買いを防ぐ機能)
ところが、宅建業者が手付金を立て替える等をしてしまうと、安易に契約を締結してしまうことにつながりかねず、結果として買主(消費者)保護に欠ける危険性があります。
そのため、宅地建物取引業法ではこのような行為を禁止しているのです。
「貸付けその他信用の供与」とは、
(1)現実に宅建業者が手付金を貸し付ける行為
(2)約束手形によって手付金を受領する行為
(3)買主が手付予約をした場合において、宅建業者が当該予約債務の保証人となる行為
(4)手付を数度に分けて受領する行為
(5)手付金を事後に受領することとし、契約締結時に受領しない行為
等の行為を指します。
なお、禁止されているのは「誘引する行為」自体ですので、たとえ契約が締結に至らなかったとしても違反になってしまうことに留意してください。