「お前ら人間どもには信じられぬものを、俺はこの眼で見てきた・・・オリオン座で炎上した戦闘艦・・・タンホイザーゲートの暗闇に輝くオーロラ・・・そんな想い出もやがて消える・・・この雨のなかの、涙のように。」

リドリー・スコット監督作品『ブレードランナー』の、あまりに有名なセリフです。

人間に反抗しないよう安全装置として埋め込まれた、わずか四年しかない寿命を必死に生きようともがき苦しんだレプリカント(人造人間)ロイ・バティの、最期の言葉。

人生百年時代といわれても、生きて明日を迎えられるかは神のみぞ知ること。自分を抹殺しようと付け狙うブレードランナー(処刑人)リック・デッカードに向けて、まるで己の生きた証を刻もうとするかのような、振り絞るような、静かで悲痛なロイの叫びは、今もなお僕の心に響きます。

2019年。

『ブレードランナー』の作品世界では環境破壊が進み、貧困層の人々はよどんだ大気と、汚染物質を含んだ雨が降り続く地上に住み、富裕層は比較的空気のきれいな高空までそびえる超高層ビルに住んでいます。さらに富める人々は地球を捨て、オフワールドと呼ばれる宇宙植民星に移住してしまっています。

レプリカントは、人間にかわり植民星のテラフォーミング作業員や戦闘用兵士など危険極まりない仕事をさせられている奴隷・・・使い捨てのアンドロイドです。ロイはそんなレプリカントの一人でした。

2019年。

現実の地球はそこまで痛めつけられてはいないまでも、まあまあな環境破壊と気候変動が起こってはいます。AIの研究が進んではいますがしかし、奴隷ロボットの反抗はまだまだ先のことになりそうです。

この年の4月。現実の地球の片隅、日本の東京である展覧会が催されました。

「シド・ミード展 SYD MEAD: PROGRESSIONS TYO 2019」

『ブレードランナー』の世界観を決定づけるビジュアルイメージを作り上げたフューチャーヴィジュアリスト シド・ミード氏の個展です。


この個展ではシド・ミード氏の珠玉の原画が数多く展示されました。声優 朴璐美さんによる音声ガイドも素晴らしく、時を忘れて氏の世界に浸ったのです。




その会場で販売された図録。自動車のデザインなど工業デザイナーとしての実績のほか、『ブレードランナー』や『2010年』『スタートレック』『ショートサーキット』『エイリアン』といった映画作品、『ターンエーガンダム』『ヤマト』などアニメファンにもお馴染みの作品のビジュアルが収録されたもの。繰り返し眺めていますがとても素晴らしい図録です。




2021年。この図録がさらにグレードアップした美術書として発売となりました。『シド・ミード展 図録愛蔵版』です。

この美術書の白眉は「ショルダー・オブ・オリオン」。先の図録には収録されなかった「ショルダー・オブ・オリオン」はロイのセリフにのみ語られた大規模な宇宙空間戦をイメージしたもの。特に『ブレードランナー』のファンにとっては、涙なしには見られない作品です。

とても美しいシド・ミード作品に、ぜひ浸ってください。

シド・ミード氏は去る2019年12月、この世を去りました。
ここで、氏の言葉をご紹介します。
 
「明るい未来のためのリハーサルをしよう」

改めて氏のご冥福を心よりお祈りいたします。

R. I. P

2021/2/21 06:00
版元で一時的に復活していた在庫がありましたが完売となりました。