1992年3月
慶応だったか青山学院だったか定かではない。
マコちんは、合格した夜間学部入学金納入のため、京都から長距離トラックを乗り継いで東京の地、関越を降りてたった。
右も左も分からない。
ただ、持ち前の嗅覚と感が導いてくれた。
瞬間は覚えていない・・・。
一年越しに高校同級生の「直助」に再会した。
おそらく、西武池袋線大泉学園駅前だろう。
直助はその地に待っていた。
「おう」「ひさしぶりやな」「なんしとったん」「まあ、つもる話もあるさかい・・・」
おそらくそんな再会の会話で直助のマンションへの路を歩んだのだ。
再会の道程は覚えていない。
つまりは「あたりない」会話だったのだろう。
噂や現在を話すでも無く、それぞれがそれぞれの「かっこいい」自分を話していたのだろう。
「お前の母ちゃんから電話あって、早稲田受かったって泣いとったぞ」
京都を離れる前、母には直助の所に止まらせともらうことを伝えていた。
携帯電話など無い時代、実家に届いた朗報をバカ息子にいち早く伝えたいという母心。
「ほんなん?」
おそらくそんな受け答えだったろう。内心は万歳!その頃から無表情を演じる術を体得していたはず。
翌日、小雨降る中、直助にナビゲートされ西武新宿線に乗り池袋、新宿、高田馬場へ向かう。
着替えも持たず上京したため、直助に服を借りる。
お上りさんスタイルのマコちんは、まぶしく思えていた。
たった一年、先に上京して大学生を謳歌している直助、
当時、直助がすんでいたマンション、今でこそマンションとアパートの言葉の違いは分かる。
直助はマンションに住んでいた。たった一足の靴下を、備え付けのドラム式洗濯乾燥機に放り込む・・・「いいな」「かっこいいぜぇ」とは言えなかった。自分をチープに思われたくなかったのだ。
当時流行っていた紺ブレ、ブカブカスーツ。ジャケットとラメったYシャツを借りていざ合格発表へ!
すでに合格は分かってはいたが、自分を盛り上げる、「予備校ブギ」のシーンのように・・・
そこにあった、受験番号。数字は覚えていない、確認したのだ。
マコちんははしゃぎなどしなかった、何も記憶にない、ただ受け入れた「東京かぁ」
東京生活を夢見ていた。
ドラマ「東京ラブストーリー」に憧れていた。
自分を織田裕二演じる永尾完治ではなく、江口洋介演じる三上健一に・・・。
東京には赤名リカが、トレンディな生活があるのだと信じていた。
そうした生活が「ふつー」なのだと信じてやまなかった。
加点ではなく減点志向、「ださく見られないために」
「そうなるために」ではなかった。バブルの遺産 皆が努力や汗と涙を観ようとせず、
背伸びしていた時代だったのか。
赤名りかを求めて、直助と渋谷センター街へ。
ナンパした、正確には、ナンパを試みた。
虚勢を張って、背伸びして、渋谷チーマーに実は怯えながら・・・。
玉砕、ひっかかるリカはいなかった。
マコちんも直助も実は、ナンパ成功など求めていない。
「渋谷でナンパしている俺たち」という事実に陶酔、満足していたのだ。
夜は続く。
