以前からの問題であるが、子供の数が減ってきている。

実際に近所を歩いてみたり、買い物に行ったりしても、私のような老人は掃いて捨てるほど見かけるが、若者や子供は少ない。昔は子供がたくさんいたのに景色が変わってきたなあと、数値上の観念ではなく、具体的な実感として感じる。

 

子供はいいものである。近所に公園があって、そこにごくたまに十数人の保育園児が先生に連れられて遊びに来る。保育園児であるから、勝手気ままにあっち見こっち見、おしゃべりをし、笑い、先生に注意されながらゆる〜いまとまりを維持してぷらぷら歩いてくる。実に微笑ましい。カルガモの親子を見るよりも数十倍癒やされる。

 

このように老人の慰みになるだけでなく、彼らは将来の日本を背負って立つ人である。その数が減っているのは由々しき事態である。言葉では少子化対策とあちこちで言われているが、実際のところ本気の取り組みがなされているのかということになると、私の見る限りでは口先だけである。

 

そもそも、昔はなぜ子供が多かったのだろうか。富国強兵の国策のもと、産めよ増やせよと奨励されたことがあった。しかし、国が奨励したからといってそう簡単に子供が増えていくものではない。

 

もう90を過ぎた私の父親が相当前に言っていたことによれば、昔は子供を作れば作るほど暮らしが楽になったのだという。戦前であれば、小学校を卒業後すぐに丁稚奉公である。丁稚は親元に自分の稼ぎの一部を送金する。子供が10人もいて、その子供が次々と親に仕送りをするようになれば、親はかなり楽になるのである。年金の当たらない親でも、多くの子供に少しずつ仕送りをさせることで老後の暮らしにも見通しがついてくる。子供が学校を卒業するまでは苦しいが、苦しいのは一時である。一時なら我慢がきく。

貧乏人の子沢山というのは、今の話ではない。私の父親の若い頃の話である。そして、子供がたくさんいるから貧乏という意味ではない。貧乏人は計画性がないから子だくさんになるということでもない。貧乏人でも子供をたくさん作って働きに出せば、ある程度豊かな暮らしができるという貧乏人の知恵である。

 

翻って、今の世の中はどうか。子供は作れば作るほど生活に余裕がなくなる、貧乏になる。子供のいない夫婦が一番経済的に余裕があり、子供が10人もいようものなら生活保護を受けるしかなくなるのではないだろうか。

一番金がかかるのが教育費である。それも高校からで、大学だともっとかかる。実は私も子を二人育てていて、大学に通わせていたときにはけっこうつらいものがあった。毎月2人で20万円の仕送り、その他に学費、教材費、就活費、自転車を買うだの運転免許を取るだの、その他もろもろ。よく私の安月給で持ったものだと思う。

本当は3人でも4人でも子を育てたかったが無理だった。金がない。中学卒業でいいなら可能だったが、個人的信条として大学教育まで受けさせたかった。2人が限界である。

 

高校を中退する者が多いと騒がれることがある。ほとんどは経済的問題である。これは統計的数値としては表れてこない。早く働きたかった、好きなことをするお金が欲しかった、勉強をしても意味がないと思ったなどが中退理由の上位であろうか。

しかし、実際には経済的な問題が大きい。高校ともなると、私立高校であれば授業料もバカにならず、通学のための交通費がかなりかかる場合もあり、部活動などしようものならさらに金がかかる。また、高校生ともなれば、おしゃれや遊びについても、小中学生のような子供だましでは済まなくなる。

 

親は高校生の子供を抱えて経済的につらくなってくると、表情が暗くなり、言動がギスギスしてくる。それを子供は見ている。親は子供に学校をやめろとは決して言わない。もともと、最低高校くらいは卒業しておくべきだと子供に言っているし、親自身もそう思っている。しかし親の不機嫌な態度は子供に伝わり、子供は高校生活に意欲を失う。子供が高校を辞める話を持ち出すと決まって親は反対する。しかし、子供は高校中退を反対する親の言葉の裏に、実はやめてほしいという本音が隠れているのを見抜く。

 

話がかなり脱線したが、要するに言いたいことは、今の世の中で子供をたくさん作っても、生活苦になるばかりでメリットがなく、少子化も当然、自然のことである、ということである。人間は単純、素直なもので、自分にとって利益になることは黙っていてもやり始めるし、損になることはいくら奨励されたところでやろうとしない。いくら掛け声をかけても、それだけでは子供は増えていかない。

 

ということを踏まえた上で少子化対策をしようとするなら、子供を産めば生むほどメリットがあるという社会システムを形作る必要がある。是非頭のいい官僚が知恵を絞って考えてほしい。

軽薄な私がとっさに思いつくことだと、例えば、子供一人を生んで15歳まで育てた両親にはそれぞれ国民年金を1割増しにする。二人なら二割増し、三人なら三割増し、10人だと倍額である。どうだろうか、かなり魅力的ではないだろうか。しかも、子供が一人前になって年金の掛け金を払うようになれば、国としても十分にお釣りが来る。

子育てをしていて心配なのは、自分の老後の生活である。子育てに必要な金はその時々、どうにかこうにかやりくりして、場合によっては融資を受けてでもなんとかなるが、問題はそういう生活を何年も送ると貯金ができない、心身とも疲弊する、老後の備えができないということである。そこの手当をしてやらないことには子供が増えていくことはないように思うがどうだろうか。