黒く連綿と流れきた。
枯れることなく、ただ黙々と今にいたる。
もしもここが断言を強いる場なら、結局、枯渇とはデマにすぎなかったことになる。
この星のいたる所をつらぬき、代々、数えきれぬほどの開拓、隷属者の体液が流れる運河。いく筋を描くだろう?
つねに工事中の看板をぶらさげ、血管注射を待つ、あの管を何と名づけよう?
パイプライン、あるいは、光より高速の網? そこを流れるは、地の底から頭上はるか宙の果てまで通じ、源泉の塵屑(もえかす)に火をともすのだと言う。
その流れこそが黒檀(こくたん)より暗く、たった今この瞬間も全身を肥え太らせている。
通り沿い、側溝からこちらを見上げるものがある。
ドブ川、いつだって何かを盗み見、何もかも飲み込んでしまう。すべてを始まらせ、いたる所に拡張を重ね、どこかで必ず何もかも丸く収めてしまう。そのガマグチに入らぬものはない。
じき止まるであろうと言われ久しい。古より、いかなる川より鈍重、馬鹿のひとつ覚えのようにすべてを飲みこまずにはいない。どんなに深い河であろうとも、噛みくだけないものを易々と平らげる。表面はひどく薄く映るが、中身は透けない。のぞき見たくとも目が腐るのがおちだ。だからとて、くせの悪いこの手足をとどめおくことはできない。
何事であれ、首を突っ込み乗り出しゆくのが霊長なるものの務め。幸か不幸、この星は一番初めに手足を振るわずにいられぬものを輩出してきた。ついに私の番がきたのだ。
手を浸してみよう。
気味の悪い粘着質だと踏んでいた。しかし、それは優しい肌触りがした。おそらくはこの星にも心地よいにちがいない。でなければ、これほどまでに繁茂するはずがない。
驚くほど浅く、底も抜けない。どこまでつづくかわからない。くみ尽くしてやろうなどとは思うまい。明らかに私の手には余るから。こんなものに取りつかれるのはゴメンだ。が、今にして思う。まるで囚われの身のように、狭く苦しく浅い場へと引きずりこまれていた。
足下を流れるは闇を液状化したような物質。黒い炭酸水にも見える。いささか気が抜けすぎ、口をつける気にはなれない。だが、物心ついてこの方、黒い炭酸づけだった。脳髄まで溶かすからやめなさい、と言われるたびに激しい発作に見舞われた。魔法のような飲み物。今では、こちらを呪うような眼差しで這いつくばっている。見つめていると、私もいずれこうなるのでは、といった思いに飲みこまれそうになる。
特等席はない。
動くほかない。
ドブ川はマンホールへと抜け、糞尿くさい流れは永遠のようにつづく。だが、臭いはやがて無化され、気づいた頃には沼地が開け、周縁では水滴がこだました。彼方から何物か鳴く声がひびき、かぶさってくる。
底まで引きずりこまれる。
観念した。