本牧徒然雑記。「2月暦絵・メートル法と元号法」。

僕は1947年4月に小学校に入学しました。文相・田中耕太郎がその成立に尽力した「教育基本法」施行の第一期生です。田中はまた「尺貫」を廃止して「メートル法」を定めました。

戦後の諸制度には戦前に数々あった非合理を改めて、合理性や世界基準の導入を図ろうとの新たな方針がありました。「メートル法」はその一つです。「尺、貫目」はすっかり忘れ去られ、メートルは我々の生活の中に完全に定着しています。「合理的」だから当然のことです。

学校の教室では「自由・平等、民主主義」と共に「科学・技術立国」などこれからの国民が「合理的に物事をとらえて賢くならなければならない」ことを教えられました。子供心にもそれはよくわかりました。スターはノーベル賞・日本人初受賞の湯川秀樹博士でした。

それから80年近く。現代の日本は「合理的で賢い」社会が築かれているでしようか？

不思議な例のひとつが「元号法」です。しかも成立したのが70年。議員の大部分はまだ前世代の人達だったとしても未だに改正されません。「元号は国民に強制しない、協力を要請する」との趣旨のようですが、法律や行政が元号を使用すればそれが「正号」、西暦は「副号」と解釈せざるを得ません。

今や日常に元号を使用する人は僅かでしょう。にも拘わらず預金通帳を見れば元号で記入されており、それはつまりメートルではなく尺貫で記録されているということ。NHK画面の統計グラフは西暦ではなく昭和からの元号使用です。統計は経過感覚が重要なのにと腹立たしささえ覚えます。

外務省の文書でも元号使用なのでしょう。国家の正式文書が実務や研究上では後々まで西暦に換算されてとらえられていくのです。誰の目にも明らかなこの「非合理」。

この問題をジャーナリズムが取り上げない事情の背景には「天皇制」があると思われます。

でも僕はむしろ天皇制を健全に継続させる為にこそ西暦を「正号」、元号を貴重な日本文化としての「副号」とすべきだと考えます。現・近代思想と「合理的」には適合しない天皇制。それだからこそ、それを取り巻く付随的な要素や態様は「合理」と調和させるべきと思うからです。

我々の日常にある「合理的で賢い」ではない現象。思いつくままに記してみます。

20年ほど前「年金問題」が発生した頃、その問題に少々関与したことがあります。

その時ビックリしたのは考えられないような事務上の不合理でした。

官公労組合の反対で電算化が阻止され、やっと採用されたのがなんと紙パンチカードシステム。その上記録上のミスの続発。同一人物が名前の読み違いで複数登録されていたという(これには戸籍にフリガナがないという問題もからむ)唖然とするミスだけで膨大なケースが発見されました。

何十年とよくもまあこれ程ズサンな事務が多大な国費をかけてエイエイと存続したものです。

僕は従来、日本の行政能力は世界一と信じていましたし実際にそうなのでしょうが、でもこの情報化時代に制度的に追いついていない、むしろ取り残されているのかとの危惧の念を覚えます。

「マイナカード」のもたつきも心配です。ジャーナリスティックに報じられているのは「針小棒大」の気味があるにしても、例えば口座が個人単位ではなく世帯主口座になっていたとかのまことに初歩的ミス。窓口の派遣職員が担当したのかも知れませんが最初の研修で徹底すべき大原則でしょう。

「事務」は価値観が関与しない「合理」のかたまりのようなシステムです。

そのシステムで日本社会が世界水準に遅れをとっている背景には日本人の「非合理」の残存が反映しているのかも知れません。事務はあくまで「事務」。「メソッド・方法」であって「目的」ではない。しかしそこに「非合理」が入り込めば予想以上のロス・弊害を生じさせる。社会的に広範囲なシステムであったら余計にその弊害は大きいのです。時として「目的」の実現を損なう程に……。

更に、公的システムではない日常での「愚かさ」も目につきます。

数年前、僕は山下公園・氷川丸のデッキチェアでゆっくりと休んでいました。柔らかな日光の下、そこはお気に入りの場所なのです。ところが港内海上を水上警察署のランチがラウドスピーカーで何か叫びながらパトロールしています。よく聞いてみるとなんと「オレオレ詐欺に気をつけましょう」のなのです。僕だけへの呼びかけではないにしても実にナンセンスな！

こんなことを書くと「随分酷いことを書く」と非難されるでしょう。でも僕は男性老人特有の怒りっぽさかも知れませんが、もうこうした「優しさ・配慮」にはウンザリしています。

被害者は何十年も生きてきていろいろなことを経験してきているだろうに、これだけ世の中に警告が広まっているのに、何故こんな単純な「非合理」に騙されるのでしょうか。「合理的賢さ」を身につけていないのでしょうか。新学制教育で一体何を学んできたのでしょうか。何とも残念です。

僕が違和感を覚える風潮は若い層にも見られます。

一例を挙げれば、一瞬で読めない、あるいは教えられなければ永久に正しく読めない名前を子供につける親がどうしてこうも増えたのでしょうか？

名前は一生付きまとう大事な「記号」です。子供本人の「本質」に関わる大切な「しるし」なのです。「他人ではないよ、その本人なのだよ」との大事な識別機能なのです。名前は速やかに識別されるべきであり、命名者はそうした「合理的な賢さ」をもって命名すべきでしょう。

「親の願いを込めて命名した大事な名前」。その気持ちはよく分かります。

でもそれだけで命名したのなら何とも単純で幼稚な動機ではないでしょうか。

親御さんはきっとこれから働き盛りを迎える次代の中核を成す皆さんでしょう。

それだけに余計に心配なのです。この老人は。

幸い自分の子供達夫婦がつけた孫達の名前はそうした「キラキラ・ネーム」ではありません。

孫達にはその子供の命名に当たって同様であることを願っています。

ひ孫が嫌というほどの回数、自分の名前の読みと文字を聞かれる人生を送らないためにも。

人生全てを「合理的に賢く」貫いて過ごすことはできません。

でも少しでも「そうあるべき心構えと考え方」こそが大切なのです。

それが「新生日本」の小学校一年生のエートスとして、今のこの僕にも大切に温存されているように自覚します。「田中耕太郎」を読んでそんなことを思い起こしました。

画像は久し振りに「ベリー公のいとも豪華な時祷書・2月暦絵」。

中世ヨーロッパは河も凍って人々がスケートを楽しむ寒冷期。

ブリューゲルの有名な冬の狩の絵でも巧みに描かれています。

今冬・最近は寒さを迎えていますが、春が訪れるのも早いことでしょう。

「3月暦絵」では2月に予定していた「高校時代の自分史」に戻る予定です。

「2月暦絵」