本牧徒然雑記。「9月暦絵(続)」・五冊の伝記で思うこと。

時期が少々ずれてしまいましたが既読伝記と最近のニュースに関連しての雑感を書きます。

①ペロシ訪台と「頭山満」。

ペロシ議長は困った人である。訪台をきっかけに台湾海峡が緊張したのみならず、日中関係にもヒビが入った。「人道主義」も原理主義に陥ると周囲が迷惑する。王毅外相は、かつての侵略まで持ち出して日本を激しく非難し、外相会談キャンセルの非礼にまで及んだ。

時同じくして日中国交回復50年。

大平首相から歴代首相が腐心した中国への配慮と援助、すなわち金融資金や技術・産業面での支援、天安門事件への穏和な対応、そしてWTOを始め世界舞台への中国デビューの応援と、日本が差し出した握手の手は、天皇訪中ではっきりと示された通り「贖罪」の気持ちに裏付けされたものであった。

中国も鄧小平をトップにそれを理解し、win-winの30年間であった。

これらはちょうど「頭山満」の孫文時代までの日中関係のようである。

しかし歴史は満州事変からの破綻を記録している。この悲劇を決して繰り返してはならない。

習体制になってからの強硬中国。日本から見れば「あれだけ贖罪の意を表したのに……」と落胆の極みである。しかし同時に「歴史の審判」の厳しさに粛然たる思いがする。かつての加害・被害の立場が逆転しそうな懸念が皆無ではないこんにち、それだからこそ悲劇を絶対に回避しなければならない。

なにしろアメリカとも中国とも友好関係を維持しなければ「生き残れない日本」なのだから。

「賢い日本」あるいは場合によっては「狡智の日本」となったとしても、それだけは守り続けなければならない、と僕は心底思っている。

②「平和の願い」と「傷痕」。

「傷痕」で「最近の「平和の願い」は何か「上澄み」だけをすくい取っているような感じがする」と書いた。今夏は原爆慰霊の挨拶などにウクライナ戦禍に関連させての「平和の願い」が多かった。

そこではウクライナの被害者に重ねて自らを語っていたように思えたし、実際不条理の被害に遭ったのだからそれは当然のことである。

しかし世界史的に見れば、当時の日本はウクライナの立場ではない。

加害国ロシアの立場なのである。この事実を特に若い諸君は理解しているであろうか？

別に「自虐史観」に基づいて書いている訳ではない。「歴史の審判」の厳しさの目で書いているのである。世界は広島・長崎・日本各地大空襲に同情するだろう。でも南京大虐殺もパール・ハーバーも忘れてはいない。ウクライナ政府は、ヒトラー、スターリン、と並べて昭和天皇の写真を掲示し、日本の抗議に会ってそれをはずした。はずしたけれども当時の日本を代表する適当な人物がいなかっただけであって、加害国・日本を訂正したわけではない。それが77年経ってもいまだに世界の共通認識なのである。

まことに先代の遺した「負の遺産」は大きく、いつまでも尾を引くのである。

僕が「上澄み」と感じるのは、そうした「歴史の重み」を知っての、そして背負っての「平和の願い」なのだろうか、との疑問である。加害の中身は「他国へ」だけではない。「傷痕」で生々しく描かれた「身内へ」の残酷さ、をも含んでいるのである。

③「吉田正廣とその時代」と「後だしジャンケンの疚(やま)しさ・後ろめたさ」。

「歴史の審判」なんて偉そうに書いているが、僕は戦前日本の「結末」を知っているから出来ることなのであって、「後だしジャンケン」をしている疚しさから逃れることはできない。

自分が当時の人間だったらむしろ「軍国日本」の尻馬に乗っていたかも知れないのである。

「吉田正廣」。真面目一徹のこの人物は朝鮮総督府時代、立場的にどうしても部下や調査対象の朝鮮人から「支配者」として見られていたとしても、本人自身は小作農家の何とも惨めな状況を少しでも改善したいとの純粋な気持ちだけで活動していたのであって「加害」は念頭になかったであろう。実情を知らない後世から「侵略者・総督府の手先」等と指摘されたら、全く心外この上もないことだろう。

他人ばかりではない。僕の父親も運転手は中国人であったが決して見下してはいなかった。

運転手が路上の人力車夫とトラブルになった際には金を渡して仲裁した姿を兄は見ている。

僕も戦後の自宅で父が来客に「手術後の朝鮮人患者がうわ言で「独立万歳」と叫ぶので、治安当局に漏れないかと大変に心配した」と話しているのを側で聞いた記憶がある。

皆「普通の人」なのである。現代日本人の平均像と全く差異はないと言えるであろう。

むしろ、勤勉さ・真面目さ・意志の強さ・誠実性・道徳心・責任感等では上かも知れない。

少なくとも僕よりはずっと上である。僕らに、少なくとも僕には本来偉そうに「後だしジャンケン」をする資格はない。だから「疚しく後ろめたい」のである。

「お前はどうなのだ？」。僕が答え得る唯一の回答は「歴史に学ぶ」だけである。

今まで何回も書いている「バカのひとつ覚え」。しかしそれしか答えようがない。

明治維新後日本がたどった道は100点の満点とは言えなくても、それに近いものであった。

世界史上、少なくともアジア史上特筆すべき歴史であったことに異議はない。

しかしその後の悲惨な結果に至る屈折点、反転点はどこどこにあったのであろうか？

万巻にあたる論議がなされている。しかし恐らく結論は出ないであろう。

我々は「東京裁判」でその決着をつけた。とにかく結論しなければ前に進まないからである。

その際の国民の責任は「一億総ざんげ」という実体のない言語で終り経済立国に邁進した。

大成功であった(と思う)。

でも「歴史に学ばない」と思われる現役閣僚の「靖国参拝」は途絶えることなく、「総ざんげ」の国民はポピュリズム政治を無責任に歓迎する。

個々には善良なる国民、しかし後に歴史的に「総体」として見られれば「加害者」ないしは「愚かなる大衆」としてとらえられる国民。それは戦前日本人、そして今のロシア人のように。

………これ以上僕は先に進んで書くことができない。

④防衛力の抜本的強化と「原敬」。

世論調査では防衛力強化に賛成が過半数だという。でも財源はどうするのだろう。

財源をセットにしないでは、質問する方も答える方も「借金ボケ」が心配である。

日本が第一次大戦・戦勝で日の出の勢いの原敬の時代でも、既に「軍縮」が重要政策のひとつとなっていた。戦前の財政の方がずっと健全な感覚で規律化されていたのだ。

今の日本では「財政規律」なんか吹っ飛んでいる。

でもそれは政治家だけの責任ではない。

もうそろそろ「自分達の時代の政策費用は自分達の財布から出さなければならない」との原則に戻らないと大変な事になる。

そのひとつの方策は「目的税」的な手段ではないだろうか？

これは既に前回の消費税率UPでなされている。主として社会保障費に充当されている。

同じ考えを取り入れるなら「防衛力強化税」でも新設すべきではないか。

その負担があった上で「賛成」なら本物である。

かつての「軍事亡国」は経済復興で立ち直ることができた。

「財政亡国」は、その時の日本に立ち直るだけのエネルギーが残っているだろうか？

これも「バカのひとつ覚え」だが、次世代に「負の遺産」を絶対に残してはいけない。

⑤「南部陽一郎物語」。

この本はアクセス数も「いいね」も最も多かった。僕もこうした本を読んでいきたい。

ただ、ちょっと難しい本が数冊残っているので気が重い。

ということで、次回は「日本人にとってキリスト教とは何か」。

9月はキリスト教シリーズの予定です。

「9月暦絵」(続)