前回の続き。西東京まで行ったついでに、去年受験で泊まった料理店に行ってみた話。

立川からまた中央線に残って、八王子に行った。八王子駅の北口を出て、放射状に伸びる通りのうち、西放射をしばらく歩くとインディアン・スパイス・マーケットというカレー店がある。変形交差点の角にへばりつくように建つ小さな店だ。オーダーを出して席に着いた。記憶の糸を手繰る。


去年の国立大学前期試験の第一日目の夕方のこと。自分はもう暗くなった寒い道をホテルに向かって歩いていた。狭くてタバコ臭い安ビジネスホテルの部屋に着いた。

その日の試験の出来は最悪だった。国語は評論は手はつけたという程度、近代文語文は全く分からずに時間が過ぎ、要約はなんとか書き上げただけだった。数学は1完、けれど本当に出来たかはかなり怪しい状態だった。

何をするでもなく、しばらくホテルの部屋に座っていたと思う。

ふと、夕食を食べに出かけることにした。そのホテルにはレストランは無かった。適当な店を探してしばらくあたりを歩いた。全国チャーンの店もよかったけれど、旅先だし、個人経営の店にしようかと思い、気軽に入れそうなこの店にした。店名のスパイスというのにも引かれたのかもしれない。どうせここまで来たのだ、何か試してみるか、と。

店に入るとたぶん北インド出身(ネパール出身の人もいたかもしれない)の人が、威勢のいいかけ声をかけながら、驚くような速さで料理を作ってくれた。

ボリュームのあるカレーを、大量の汗をかきながら食べた。食べ終わる頃にはすっかり満腹で、体の芯から温まっていた。

店を出ると、店に来る時に着てきた黒いコートは脇に抱えて、両側に並んだ店の明かりに照らされた通りを帰って行った。まだ明日がある、次こそは、と思いながら。

まあ、二日目は一日目以上に実力そのままにさんざんだったのだが。


というわけで忘れられない店なのだ。

今回も遠い国の言葉のかけ声が店内に響く。隣の席のおばさんはこの店が気に入ってよく来るらしい。高校生が数人入ってきた。メニューを前にあれこれ賑やかに話している。小さな店がいっぱいになった。お客さん増えてるな、と安心して、最後の一口を食べて店を出た。

立川に戻った。今度は南口を出て、東に伸びる通りを歩く。少し行くと中華料理店や整体院、中国語教室が集まった一角がある。そのなかの一軒に多味軒という店がある。ここも去年の受験期に上京したとき立ち寄った。そのときは麻婆豆腐を頼んだ。近くの席では家族連れが何かのお祝い会のようなことをしていた。何度か来て慣れている様子だったので、その家族にとっては何か特別なことがあった時に来る店なのかな、と思った記憶がある。

久しぶりに店の前を通ったが、まだしっかり商売しているようだ。

こう振り返ると、自分は何か特別な日には辛い料理を食べているみたいだ。何故だろうかな。