友人にお願いして買い物についてきてもらう。
正直、私はファッションに疎い。
そんなわけで、ファッションに関する買い物はめっぽう苦手だ。
抗がん剤治療が始まると、避けて通れないのが脱毛だ。
主な副作用は吐き気と脱毛だと聞いている。
吐き気は、いい吐き気止めが今はあって、副作用はほとんどありません。
という説明は何度も聞いた。
「吐き気は」ねっ!
同じくらい、脱毛に対しての精神的ショックの説明も何度も聞いた。
最初のころは、考えるだけでもつらかった。
どのくらい抜けるのだろうかとか、外出できるのだろうかとか、とにかく不安だった。
ウィッグかぶるのかとか、帽子被るのかとか…とにかく、どうしたらいいのかとかも考えた。
で、ふと、「今から帽子をかぶるのはどうだろうか」と思い立った。
今から帽子をかぶるのを日課にしてしまえば、自分の精神的ショックもやわらぐし、ご近所さんも「あの人は良く帽子をかぶっている」認識でいてくれるのではないか。
ちょっと無理やりな考えな気もするけれど、とにかく今から帽子をかぶってみることにした。
ってわけで、友人に帽子を見立ててもらった。
久しぶりに買い物に出たわけだが、すでに夏物セールが始まっていて、「もう、九月か」みたいな実感がわいた。
一か月後、私はどうなっているのだろうか。
つい、気持ちが暗い方へ行く。
帽子は都合のいいものが見つかった。
運がよくというか、私は帽子がよく似合う。
特に違和感がない。
そして、友人はついでに明るい色の服も見立ててくれた。
闘病生活といいえども、ずっと入院しているわけではない。
通院になる。
車の運転のどのくらいできるか分からない。
それならば、胸を張って、おひさまの下を歩ける精神を持ちたい。
「明るい色着た方がいいよ」と、私がひとりだったら絶対に選ばない色合いの服を勧めてくれた。
私は、今の私を支えてくれている人たちに恩返しができるのだろうか。
思わずそう言った私に、友人は「恩を返して欲しいと思っている人はひとりもいない」と言ってくれた。
確かにみんな、ただ「生きろ」「帰ってこい」と言ってれる。
私は、生きたい。
帰ってきたい。
死んでしまいたいと思ったことなんて幾度もあった。
死んだって良いと思ったことも幾度もあった。
今だって、「何が何でも生きていたい」とは思っていない。
けれども、私に「生きていて欲しい」「また笑って会いたい」と思ってくれている人がいる以上、私は生きたい。