楽譜に書いてある強弱記号。


これは、オーディオのボリュームつまみを回すように指示通りに音量を上げたり下げたりすればいい…というものでは決してないと思うのです。


その音を強く、弱く、そのフレーズをだんだん大きく、小さく、奏でる、ということの中に、その音楽を作った人がその音から何を伝えたいのかが、はっきり書き込まれているのです。


人は感情が高ぶった時、思わず声が大きくなってしまいます。打ちひしがれた時には、相手に聞こえる声を出すのもやっとになってしまうかもしれません。強弱には、そういった人の気持ちが反映されています。


演奏する人は、それをとことん読み込まなくてはいけません。


人が大きな声を出す時、その理由、背景にある感情、それは決して一律ではありません。喜びあふれて声が大きくなることもあるでしょう。 怒りを隠せず思わず大きい声が出てしまうこともあるでしょう。ただ単に遠くにいる人に話しかけたいから大きい声を出すこともあるでしょう


同様に、そこにフォルテの記号があった時、背景にある感情は何なのか、それも一律ではありません。それをきちんと読み解いて音に込めること…

それこそが、演奏する人の役割であり、それができければ、それは音楽を作った人の真意を伝えられない演奏になってしまいます。


その作業は、演奏する人にとって、作曲者との真剣な対話であり、演奏する喜びそのものになり得ます。


強弱はただの音量調整ではなく、その音楽を作った人の伝えたいものを解き明かす大きな手がかりであることを、常に忘れないようにしたいのです。