私は女性であることに違和感を持っていて、大学生になった頃、ジェンダークリニックで性別不合の診断を受けました。就職活動や社会に出る時には普通の男性でいたかったので、在学中に男性ホルモン治療を開始、夏休みなどを利用して性別適合手術を行い、戸籍も変更して晴れて男性になりました。企業からは内定をもらい、大学も無事に卒業して、人生は順調に進んでいるかのように思えました。

ところが、いざ会社員として社会に出ると、学生時代の頃には感じなかった違和感を感じるようになったのです。実は、男性として扱われても違和感もないし問題なくやっていける、と思ったのは元の性別を知っている大学の仲間内という狭い世界の話でした。社会に出ると誰も元の性別を知らないので、相手は普通の男性だと思って接してきます。そこで初めて、大学では本当の男としては扱われていなかったことに気付き、男性として扱われるのは違う、と感じました。

しかも、私の性的指向は男性です。性別を変えなければ結婚ができたし、子孫も残せたはずです。男性になってしまったので、同性愛者として生きていかなければいけません。私は深く後悔しました。そして過去を振り返ると、子育てに奔走する母親を見て、女ってつまらないな、嫌だな、と感じたのが性別の違和感の発端でした。女性の役割や生き方からの逃避を性別の違和感と思い込んでいたのです。

悩んだ結果、私は女性に戻ることにしました。性別の変更は一方通行であるため、再変更はできません。誤診だったので取り消しをすることになります。お世話になった医師2名に誤診と認めてもらう必要があり、大変心苦しいものがありました。しかも性別適合手術で取り除いた臓器は戻ってきません。子供は作れないし、卵巣もないので高齢になるまでホルモン投与をし続けなければいけません。男性ホルモンで生えた髭や体毛は脱毛が必要ですし、声は低くなったまま戻りません。

それでも私は女性に戻ろうとしました。女性ホルモンの投与と脱毛や豊胸で外見は普通の女性に戻ることが出来ましたし、声の低さは話し方でなんとかカバーできています。姿が見えない電話だと難しいですが。ただ、子宮卵巣を摘出してしまったので好きな人が出来ても子供を産んであげることができません。それだけは後悔することがありますが、この体験は自分の人生にとって必要なことだったのだ、と思っています。
 

 

※この物語は実話を元にしたフィクションです。ホルモンの効果には個人差があり、全員がこの主人公のような変化をするわけではありません。また、不可逆な変化を伴いますので投与は慎重に。何があっても自己責任となります。