普通の会社員として働いていたA子の趣味は、カラオケだった。友人や同僚とよくカラオケに出かけたり、一人でもカラオケに行くくらいカラオケが大好きだった。女性の曲から男性の曲まで何でも歌ったが、特に男性ロックバンドの曲を好んで歌っていた。
ある日、A子は自分の歌声を録音して聞いてみた。何の変哲もない女性の歌声だったが、男性ロックバンドの曲を歌うには声が高くて迫力が足りず、不満が残った。低音が苦手で、歌えない曲も多かった。
「もっと男っぽい低い声で歌えたらいいのに」
A子はQ&Aサイトに質問を投稿してみることにした。いくつか返答があったが、女性が低い声を出せるようになることは難しいようだ。しかしその中で、男性ホルモン投与で男性の声になれるという回答に興味を持った。体毛が濃くなったりにきびができるという副作用もあるようだが、なんとか対処できそうだし、試してみたいと思うようになった。そして診断なしに男性ホルモン投与を受けられる病院を探し出し、男性ホルモンを投与することにした。
男性ホルモン投与を始めるとまず生理が止まり、喉の調子が変だと感じると、徐々に声が低くなってきて喜んだ。声の変化には同僚も気付いたが、男性っぽく格好よく歌えるよう低い声のトレーニングをしている、ということにして、しばらくはカラオケを休むことにした。そして、同時に副作用が出始めた。皮脂が増えてニキビができやすくなった。これは想定内で、化粧品をニキビや脂性に対応したものに変えた。また、すね毛などの体毛が徐々に濃くなってきたり、髭も生えてくるようになった。これも想定内、剃ったり脱毛したりしてカバーした。
男性ホルモンの効果が現れたのは外見だけではなかった。プラス思考になり性格が前より明るくなったり、競争心が出てやる気が出たり、想定外の良い変化があった。しかし、変化はそれだけでは終わらなかった。男性的な性欲が高まってしまい、これまでほとんどしたことがなかった自慰行為を毎日するようになってしまったのだ。そんな自分に困惑した…私は一体どうなってしまうんだろう。
また、声が低くなったことでも想定外の問題が生じていた。そのまま電話で話すと、声で男性と思われてしまうのだ。あまり大きな変化だと同僚にも怪しまれてしまいそうだし、女性の格好で低い声だと知らない人には元男性と思われてしまうかもしれない。声帯が変化して高い声を出しにくいが、必死に高い声を作って話すようになった。
それでもA子は男性ホルモン投与を続けた。1年余りが経過して声の変化が落ち着いたところで、男性ホルモン投与を終了した。最初は音域が狭く歌いにくかったが、ボイトレをして徐々に広がり、楽しく歌えるようになった。皮脂の分泌も落ち着き、生理も戻り、当初の目的を達成することができた。
いつしか彼女は普段は女性の声を出し、カラオケやセールスの撃退の時には男性の声を出して、男女の声を使い分けるようになった。彼女は「両声類」になったのだ。
※この物語はフィクションです。男性ホルモンの効果には個人差があり、全員がこの主人公のような変化をするわけではありません。また、不可逆な変化を伴いますので投与は慎重に。何があっても自己責任となります。