「与える人」が成果を得る
今でもはっきりと覚えている祖母から教わった言葉があります。
それは、二宮金次郎の「水を入れたたらい」の話です。
人は「自分さえ良ければいい」という考えになると自らに幸せは来ない...という教えなのですが、
それをたらいに入った水を自らの利益に例えるならば、
たらいに入った水を自分に寄せようとすると、自然と水の流れはたらいの側面に伝わって逃げていきます。
対して、自分から出すよう水を外に外に流すと、水流は自分のところにやってきます。
つまり、自分の利益優先よりも他人の利益を優先すると、後々自分に利益がやってくる、という例えです。
この話を聞いて子供ながらにとても良い話だなぁと強く印象に残っていました。
そしてこの本のタイトルを見た時、不意に祖母のその言葉を思い出したのです。
この本では、「心理学」と「人間が成長するためのフロー理論」を駆使し、企業やビジネスパーソン、アスリート、芸術家、アーティストのパフォーマンス向上に務めている筆者が書かれています。
そんな筆者のキャリアをベースとしている本書は、「与えることで成果が得られるカラクリ」を明かしたものであり、「与えること」には自分自身のパフォーマンスが上がるというメリットがあると書かれています。
「金品などを相手に与える」という他動詞的な与え方は、心を乱す原因になるかもしれません。
しかし「なにを」という目的語を必要としない「自己完結型の与える思考」は、心を整え、安定させてくれるということです。
だとすれば結果的には、与えることによってパフォーマンスが上がることにもなるわけです。
そして著者は、「与える」には、「感謝する」「応援する」「思いやる」と3つの原則があると主張しています。
そんな考え方を軸に、本書では「与える思考が、ハイパフォーマンスを実現する仕組み」「与える思考を習慣化するコツ」「与えることで、モチベーション、集中力、行動力、実行力、人間関係力を高める技」「与えることで、心配事を足り切る方法」を紹介しています。
「いただきます」という言葉から、ハイパフォーマンスの仕組みがわかる
食事の前に「いただきます」と手を合わせて感謝することは、日本人が昔から行なっている当たり前の習慣になっています。
しかしそれは、ベストパフォーマンスを生み出す言葉でもあるのだと著者は主張しています。
「いただきます」と手を合わせるとき、そればかりか「いただきます」とただ考えるときにも、パフォーマンスは確実に上がるというのです。
これは「ライフスキル」という、脳の使い方による効果といい、
ライフスキルとは、言葉の通り「生き方の技術」を指すとのことです。
言い換えると、自分らしく生きるための方法とも言えます。
ライフスキルとは、「心の状態」を整えるための脳の使い方になります。
心の状態を整えることが、自分らしく生きることにつながるとは、ちょっと不思議な気もします。
しかしそれは、人間のパフォーマンスが心の状態に大きく影響されるからだというのです。
心の状態には、「フロー」と「ノンフロー」の2種類しかないと筆者はいいます。
簡単にいえば、フローとは“機嫌のいい感じ”で、ノンフローは“機嫌の悪い感じ”です。
そして当然ながら、心が整っているとは、「心がフローで、機嫌がいい感じ」の状態です。
心がフローであるなら、自分の機能が上がり、能力を発揮できるということです。
つまり、ベストパフォーマンスを発揮できるというわけです。
ライフスキルを使って心がフローになっているときは、モチベーション、やる気、集中力、行動力、執行力、判断力、決断力もアップして、自分のベストパフォーマンスを引き出せる状態になるでしょう。
そうして自らの機能を高めて生きることができるのであれば、それは自分らしく生きていることの証だということです。
「いいこと」をすれば「いいことが起こる」と楽観しない
現代では成功の要素として「与える」というキーワードが注目されつつあります。
とはいえ本書で筆者がいう「与える」思考とは、欲しいものを得るための方法論ではないのだといいます。
人は、「相手の喜びを自分の喜び」として感じることができます。
たとえばプレゼントをあげた結果、相手が喜んでくれたとしたら、それだけで自分もうれしくなれるわけです。
それどころか、「プレゼントをあげよう」と計画するだけでも、なんとなく幸せな気持ちになれるのではないでしょうか?
見返りなどなくても、相手が喜んでくれるという事実だけで自分もうれしくなる。
具体的に何かを与えなくても、「与えよう」と考えているだけで、気分が良くなるのです。
著者によれば、これは「フォワードの法則」と呼ばれているものです。
与えることによって、自分自身がフローになるという考え方です。
ハイパフォーマンスを実現する「与える3原則」
筆者の考える「与える3原則」があります。
「感謝」「応援」「思いやり」です。
「ありがたい」と考える。
「がんばれ」と考える。
「思いやろう」と考える。
ただ主体的に「与えよう」と考えるだけではあるけれども、そのように自分から「与えよう」と考えるだけで心の状態が整い、エネルギーが高まるといいます。
いわばお金や物を与えることではなく、「与えると考える」ことが重要だということです。
しかもそれは「いいことをすれば、いいことが起こる」という意味ではないそうです。
「与える」思考は自分の心を整え、「自分」という人生の試合に勝つための基本となる成功思考になります。
与えると考えることは、相手のためになるでしょう。
しかしそれは、なにより自分のためになるという考え方。このような考え方こそ、まさに「与える」というライフスキルになります。
そして、自分の思考のエネルギーによって自分の心にフロー化を起こすスキルだということです。
大きな視野で考えれば、「生きる」こと自体が人間のパフォーマンスです。
「自分から与える」という主体的な生き方をしていれば、結果的に周囲もフローになり、相手の人生を豊かにしていくこともできるというわけです。
そして、このようなフローの好循環を生み出せることを、著者は「リーダーシップのある生き方」だと考えているのだそうです。
質のよい仕事、質のよい人間関係、質のよい成果、質のよい人生を望むのであれば、「なにを」与えるのか、「なぜ」与えるのか、「どうやって」与えるのかという認知的な思考から離れ、「ただ与える」という思考法を習慣化していくべきだといいます。
「与える」思考でフローの好循環に乗れば、周囲との相乗効果で良質なパフォーマンスを発揮できるということになります。
与えるということは仕事でも使えます。
会社の利益を追求するのであれば、「与えること」に集中することで相互利益が生まれるはずです。