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ビデオ1



昨日、独フォルクスワーゲン社(VW)の株価が先週の金曜日から450%(210ユーロ→945ユーロ)跳ね上がり、一時的に時価総額世界一位(1500億ユーロ)の企業になったと報道されました。VW社の株価は一週間で286%、一年で444%に急騰しています。つられて、ドイツの平均株価指数DAXも7%上昇しています。独ポルシェ社がVW社の持ち株比率を引き上げると公表した結果、ショート・ポジション、つまりVW株を空売りしていたヘッジファンドがパニック買いをしたのです。この動きによって、総額200~300億ユーロ(約2.48兆~3.72兆円)の損失が発生したと推定されており、多くのヘッジファンドが廃業に追いやられると言われています。


いったい、何が起きたのでしょうか?


ポルシェ社が規模の上で遥かに大きいVW社(註1)を買収しようとする動きが過去3年に渡り続いていました。公表されていたポルシェ社のVW社持ち株比率は35%だったのですが、実は74.1%も保有していた(ある意味「隠し持っていた」)ことをポルシェ社が急に明らかにしたのです。74.1%の内訳は普通株式42.6%、現金決済(註2)のオプションが31.5%でした。ドイツの法律では、現金決済のオプション取引については開示を求めていません。それを利用して水面下でTOBを進めていたということになります。同じ方法で7月に独シェフラー社がコンチネンタル社のTOBを実現しており、問題になっています。


ポルシェ社とVW社との関係は決してよいものではなく、買収したとしても事業に支障が出るだとうと言われています。

しかし、最も被害を受けるのはVW社の株式を空売りしていたヘッジファンドです。(関係者によると、VW株を空売りしていたヘッジファンドは100社以上あり、VW株の実に13%の額にのぼるそうです。)空売りをしていた投資家が損失を抑えるために買い戻し(ショートカバー)に動き、株価が跳ね上がることを「ショート・スクイーズ(short squeeze)」(「踏み上げ」)と言います。今回のVW騒動は、史上最大級の「ショート・スクイーズ」を記録しました。



ジョン・オーサーズ氏のShort Viewで何が起きているのか具体的にわかります。

ビデオ2


ポルシェ社によるTOBについて知るよしもない投資家は、VW社の株価がいずれ下がるだろうと予想してショート・ポジションをとる(空売りする)のが一般的でした。

ショート・ポジションをとる投資家の多くは、同じ業種の中でも相対的に成長性の高い企業に同時にロング・ポジションをもつことでリスクをヘッジする「マーケット・ニュートラル投資戦略」をとっています。VW社の場合は、例えばダイムラー社の株を買い持ちすることでリスクをヘッジするという事が考えられます。しかし、水面下でポルシェ社が株式を買い占めているため、VW社の株価は実態に伴わずじりじり上がっていきます。ダイムラーとVWで「マーケット・ニュートラル投資戦略」をおこなっていた場合、10ヶ月で95%の損失を出したことになります。

今回の発表でポルシェ社の持ち株比率が74.1%であることが明らかになり、さらにLower Saxony社が20.1%保有しているので、浮動株の比率はたったの5.8%です。今回の騒動で一気にヘッジファンドの買いがこの5.8%に殺到したため、株価が異常に跳ね上がってしまったのです。もし昨年空売りしていれば、今回の件で500%の損失を出したことになるそうです。


オーサーズ氏は、この取引で出た損失をカバーするためにヘッジファンドは強制的に他の株式を売らざるを得ない状況に陥いるだろうと指摘しています。例えば、サブプライム問題が金融機関に打撃を与え、原油価格が高騰している間は、米国の金融株を売り持ち、原油株を買い持ちするのが一般的でした。しかし、SSEが今年の7月に金融株の空売りを禁止したとき、損失を防ぐ為に金融株を買い、原油株を売らざるを得ない状況に追い込まれました。その結果は、現在の原油価格を見れば分かるとおりです。

下図は、VW(売り)とダイムラー(買い)、米国金融株(売り)と原油(買い)で「マーケットニュートラル投資戦略」を行った場合の差益の推移を示しています。


VW



今回の件では、どこにしわ寄せが行くのか市場が不安げに見守っており、影響を受けるのではないかと疑われるソシエテ・ジェネラル、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスの株が売られています。

今回の一件で利益を出したとすれば、もともと主要株主であったLower Saxony社くらいで、ポルシェ社もオプション取引を決済できるかどうかはわかりません。しかし、ポルシェ社は2007年7月までの一年間の売上げのうち36億ユーロがオプション取引から出したもので、車両販売の10億ユーロの3倍以上であったことから、物議を醸しています。




(註1)年間車両販売数:ポルシェ(100,000台)VW(6,000,000台)、年間売上高:ポルシェ(70億ユーロ)、VW(1000億ユーロ)

(註2)実際の商品を受渡さず、反対売買による差額(現金)の授受によってなされる決済のこと。同義語は「差金決済」。