中国政府は、内需を刺激するために様々な改革に乗り出しています。

特に期待されているのが7億2,000万人という言われる農村人口の消費で、農地の所有権を売買することを許可したり、直接補助金を交付するなどの方法でてこ入れをしています。NNAニュースに、「家電下郷」制度の対象地域を拡大するという記事がありました。これは農村部での家電購入に補助金を交付するという制度です。


たまたま、CEQの記事を読んでいたのですが、現在中国の冷蔵庫や洗濯機はどこで一番製造されているかといえば、伝統的な軽工業地帯である広東省や「西進キャンペーン」で政府が企業の進出を促した重慶市ではなく、安徽省や江西省だそうです。広東省には家電メーカーの本社やR&D部門があり、その工場が各地に散らばっているのですが、特に安徽省は上海地区に隣接しているため、ローコストで製品を運送することができ、平均賃金も広東省に比べれば32%も安いそうです。ここ数年、広州港からの出荷量が横ばいか、減少傾向にあることで中国の輸出量が減っていると心配する声があがっているそうですが、実は北の上海地区では輸出量は堅調に伸びているといいます。安徽省の工場は、もともと上海に住む中国人をターゲットに安く、良質な白物家電を製造していたので、この地域はChina’s china(「世界の工場」のための工場)と呼ばれていたのですが、物流と賃金の両面で他地域よりも優位にあるため、外需と内需の両方から恩恵を授かることになったのです。


chinamap




十年前は中国の家電メーカーといっても外資企業の下請け工場というイメージでしたが、今では技術もブランド力も外資企業に引けをとらず、世界中に進出しています。中国国内での販売競争は年々激化し、欧米や日本の企業と提携しながら、シェア確保にしのぎを削っている状況です。 
例えば、広東美的電器股フェン有限公司(美的電器)は、東芝キャリアとエアコン、冷蔵庫事業で提携し、国内では中小企業を買収しながら、ベトナムにも拠点を築いています。(富裕者層の間では高いお金を出してもエアコンはいいものを手に入れたいという傾向があるそうです。←環境問題のせい。)
世界的な不況のなかで、相対的に安価な中国の家電産業がどこまで持ちこたえることができるのか、今後重要な指標になってくると思います。


一方で、中国でてこ入れを進めているローエンドの「内需」はどうでしょうか。


都心部の需要が鈍ると、中国の家電メーカーは農村向けに機能を絞った安価な商品も開発し始めています。2006年12月4日付日経新聞によれば、美的電器は除湿や空気清浄などの機能を省いて価格を既存品の半分以下の1,000元(1元=約15円)に抑えた製品を開発しています。農民一人あたり現金収入額が1,797元ということは、かなり高い買い物になりますが、販売高は順調に伸びてきているようです。他にも電子レンジやエアコンを主力とする格蘭仕(ギャランツ、広東省)、テレビや携帯電話機大手のTCL集団(広東省)が農村部に販売店網を次々に築いています。


では、政府の補助金制度がそのまま家電販売量に結びつくかと言えば、そうではなく、様々な波及効果が出てくる可能性があります。1998年から2003年まで中国政府が推進した住宅私有化政策の効用について、CEQが分析している記事を読むと、中国の消費性向の一端を知ることができます。

The CEQ on FT.com: Housing privatisation
Published: February 4 2008


この住宅私有化政策は、主に二つの手段によって実行されました。

①公有住宅を市場価格から70%ディスカウントした価格で住民に売却する。
②従業員の住宅手当てとして総額2,500億ドルの補助金を企業に支給する。

最大の目的は、内需を刺激することだったと考えられますが、思わぬ方向に効果が波及していったそうです。


まず、住民はどうしたかと言えば、老朽化した公有住宅を売り払い、モーゲージ・ローンを組んで新しい商用住宅に買い替えました。1998年から2006年の間に住宅販売数は9倍、モーゲージ発行額は16倍まで増加しています。その後、住民はモーゲージ・ローンの支払いと底をついた貯蓄を補完するために消費を控え、さらに不動産価格が上昇することで新たに住宅を購入するために貯蓄しなければならない額も増えました。結果的に消費は増えず、貯蓄性向が高まったのです。


一方、政府から補助金を得た企業はどうしたかと言えば、従業員の住宅手当てには使わず、設備投資に回しました。これが2001年以降の投資ブームを引き起こし、中国経済の急成長に貢献する一方で、過剰な固定資産投資が続くようになります。

70%にディスカウントとされた公用住宅を売却することで国民が得られたキャピタル・ゲインはCEQの計算では総計5,400億ドル(約54兆円)でしたが、そのほとんどが商用住宅の市場に流れ、消費は増えませんでした。



もし、自分が所得の低い農民だったとして、政府の補助金で家電を市場価格より安く買えるようなチャンスが訪れたとします。年収は20万円程度でいつもは10万円するエアコンが3万円で買えます。皆さんならどうしますか? 喜んでエアコンを使うでしょうか? 次の日、補助金を受けていない隣の村からエアコンを7万円で買いたいと相談されたとします。この話が成立すれば、4万円のキャピタル・ゲインを得られます! そして、将来のために必要な教育費や老後の資金のために貯蓄するでしょう・・・。


「内需」といっても、中身は相当複雑なのではないかと思いました。